東アジア 惑星科学・探査 夏の学校 2023 報告

2023-09-08

2023年夏,待望の韓・中・日 夏の学校 (詳しくは https://www.facebook.com/notes/3366298483483454/) を復活させることができました!新型コロナの流行阻止のために世界中が鎖国状態になって4年間も空いてしまった間に日本、中国、韓国それぞれで惑星探査が進展し、惑星科学を学ぶ学生を取り巻く状況も大きく変化しました。大いなる期待と些かの不安を抱えながら、韓国済州島へ向けて出発です。期間は7月19-21日の3日間でした。

今回の講師はハワイ大学のPaul G. Lucey教授とカリフォルニア大学のDavid A. Paige教授という光~熱赤外分光観測の泰斗です。ところがっ!3日前になってLucey教授が健康不良により長時間の旅行を避けねばならないことになり、急遽キャンセル!!呆然とする世話人のために、韓国月探査ミッションの科学会議に参加して訪韓中だったPaige教授が、同じ科学会議参加者のChristian Wöhler教授(ドイツ ドルトムント工科大学)に代理を依頼してくれたのでした。おぉー冷えた冷えた。

夏の学校の中身については、私がとやかく言うより、参加した学生諸君の感想(下記)を読んでみて下さい。

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前列右からPaige教授、Wöhler教授、そして今回のホストChoi教授(韓国天文研究院)、筆者、Long教授(中国地質大学)。Choi教授は韓国Danuriプロジェクトの偏光カメラの主任研究員であり、科学チームの取りまとめでもあります。Long教授は中国Chang’eミッションシリーズに深く関与し、3号機では科学データ研究コアチームのリーダーを務めました。

(以上 文責 竝木則行)

 

【学部3年生】
この夏の学校は、大学院生向けのイベントであったため学部3年の私にとってはとても大きな挑戦でしたが、それでも自分の研究において、月のデータを利用する際にもっと月の科学や探査についての知識を深めたいという思いから、夏の学校への参加を志願しました。参加前には自分の不足している知識を少しでも補うため、短い期間で研究室の先生方にたくさんアドバイスをいただきながら、月の科学や惑星科学について学びました。
始まる前は非常に緊張していたのですが、初日のWelcome dinnerから参加者の皆さんがとても優しく、楽しく交流ができ、緊張が和らぎました。グループワークでは、探査計画を考える課題が与えられ、それについてそれぞれ役割を決め、議論しました。グループの皆さんが自分の不足していた知識を教えてくれたことは、大変勉強になりました。夕食後に夜遅くまで発表の準備をして、もうこんな時間なのかと思うくらい、時間があっという間に経っていたのが印象に残っています。また、グループの皆さんの発表準備をする姿勢に感銘を受け、自分もより成長したいと強く思いました。このグループワークを通して、月探査ミッションをより具体的にイメージすることができ、そして先輩方の姿に刺激を受け、非常に価値ある経験となりました。最終日の溶岩ドーム巡検では、ドーム内の普段見ることのない大きな岩や溶岩の流れの跡が至るところにあるのを見ることができ、自然の壮大さを感じました。また、ドーム内に入った瞬間に温度や空気が変わるのを実感し、溶岩チューブ内が外とは別で温度が一定に保たれること、それが月面の激しい温度差がある中でも同様に言えることを肌身で体感しました。
韓国・中国・日本の学生さんたちとたくさん交流ができ、国際的な繋がりを得ることができたことにとても感謝しています。今後の研究において、この学校で得た知識と経験を活かしていきたいと思います。この貴重な経験は私の研究に新たな視点をもたらし、成長の助けとなりました。

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【博士課程1年生】
私が夏の学校に参加しようと思った理由は、来年から1年間海外留学をしようと思っているにもかかわらず、今までに海外での学会や研究会に一度も参加したことがなく、短期間でも海外での研究生活を肌で感じたかったためです。
今年度の夏の学校は、5人1チームに分かれて行うグループワークと座学講義の2部構成でした。グループワークのテーマはアルテミス計画の有人着陸ミッションに関して、科学的な探査目標とそれに沿った探査ルートを選定するというものでした。ルート選定はサンプル回収の仕方、重量、宇宙飛行士の能力などを考える必要があり、グループ内で議論が白熱しました。また、最も重要な科学目標の優先順位の決定がそれぞれの国の学生で対立して、なかなか話がまとまらなかったのが苦労しました。議論の場で一番痛感したことは、自分の意見をしっかり主張することの大切さでした。今回、私は意見があるのにうまく表現できなかったり、納得してないのに引き下がってしまう場面がありました。結局その部分が、最終日の発表のウィークポイントになってしまって、後々後悔しました。今後、宇宙業界に携わるにせよ、その他の業界で働くにせよ、自分の主張をしっかり通すことは大事だなと今後の自分への教訓になりました。また、一番大変だなと感じた点は、グループワークの時間でした。グループワークに割ける時間は、夕食後の4,5時間(×2日)しかありませんでした。眠気と葛藤しながら、夜中までメンバーとカフェで議論したのはいい思い出です。
講義は分野の一線級の講師にこれまでの月の探査の成果から最新の探査計画までを網羅的に講義していただくというものでした。特に印象的なのは中国の嫦娥ミッションの講義でした。他国のミッションと被らず、逆に相補的な科学成果が得られるように探査目的地を決定したり、ミッションのどのシリーズでどこまでを明らかにするかなどのミッション作成プロセスの重要性を感じました。全体を通して、積極的に発言、質問する学生が多く、会場全体から最新研究の知識を取り入れてやろうという活気に溢れた授業で大変有意義でした。
最後に、夏の学校で出会った方々について書きます。今回の開催地は韓国のチェジュ島で、食事や溶岩チューブ見学などは韓国の方々が丁寧に対応してくださいました。私が一番感心させられたのは、韓国の人たちのホスピタリティーです。食事の場では、韓国料理について説明してくれたり、トイレの場所がわからずウロウロしてるとすぐ案内してくれるなど、すごく気配りをしてくださいました。また中国の方は自分の行っている研究について、強い熱意を持っていて主張が強いけれど、こちらの話も真剣に聞いてくれて見習うべきところがたくさんありました。お酒の場では、自分の名前の中国読みを教えてもらったり、日本語と韓国語で同じ意味の似た発音をする単語を言い合って盛り上がったりできてすごく楽しかったです。(「微妙な三角関係」が日本語と韓国語で同じ意味、同じ発音なのは笑いました)。また、ここで深く書くと長くなるので書きませんが、日本人参加者同士でも楽しく交流ができて最高の5日になりました。次回以降も予定と定員に余裕があれば参加したいです。

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【修士課程2年生】
非常に楽しく有意義な時間を過ごすことが出来ました。私は研究にDivinerのデータを使ったこともあり、DivinerのPIであるDavid教授の講義が特に参考になりました。また、月の探査を計画するグループワークでは、理学側と工学側の意見をぶつけ合って議論を行う貴重な機会が得られました。私は工学側なのですが理学側の人たちと腰を据えて話をし、議論の落とし所を見つける難しさというものを実感しました。最終日の溶岩チューブの観察は純粋に楽しかったです。普段は探査機が取得したデータばかり見ているので、現地で自分の目で実物を見ることの素晴らしさがわかりました。
講義についていくために合間の時間で調べ物をしたり、他国の学生とのコミュニケーションに苦戦したりと大変な部分もありました。特にグループワークの発表までの時間がほとんどなかったため、睡眠時間を極限まで削って作業するのは少々辛かったです。
参加された講師、学生、また運営の方達が親切に接してくれたため、楽しく学ぶことが出来ました。夏の学校の開催および参加に携わった全ての方達に感謝いたします。本当にありがとうございました。

 

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【博士課程3年生】
2019年の中国・武漢の回に続き2度目となった今回の夏の学校参加は、自身にとって中韓の若手の知り合いを増やすという点で大変実りのあるものであった。当時は修士課程に入ったばかりの若輩者で英語にもまだ不自由しており、直後のコロナ禍で国際学会が軒並みオンライン化したため、当時知り合った学生との繋がりは今ではだいぶ薄れてしまった。昨年欧州で揉まれたからか、多少は英語も話せるようになって参加した今回は、以前と比べて交流を深められたように感じている。特に私と同じく博士課程の最終年度に差し掛かった中韓の学生たちとの議論は楽しく、どんな探査を将来したら良いか、グループワークを通して現実的かつ白熱した議論ができたと思う。グループワークでは宇宙飛行士が月面でサンプルを回収する際の行程を作成したが、プロジェクトコーディネーターという議論のまとめ役に任命された。議論を主導する際には、日中韓それぞれの考え方や意見の擦り合わせ方などの差異を感じつつ、最終プランを確定するまでにかなり苦労したが、この経験は将来の国際探査で活かせることだろう。講義の最終日には日中韓の今後の惑星探査の紹介と東アジアでの協力について教授陣から話があったが、自身がいつか惑星探査をリードできるような研究者になって、東アジアでも実際に国の垣根を超えて惑星探査・科学で協力できるようにしたいと強く感じている。そのためにも、今回知り合った各国の若手同士の繋がりを大切にしつつ、お互い切磋琢磨して、まずは博士号取得に向けてこの後一生懸命頑張ろうと心に誓った。

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【修士課程1年生】
夏の学校では、これから何十年先も、何度も思い返すような濃密で貴重な経験をした。Christian教授とDavid教授による月表層に関するレクチャーは大変丁寧で時間を忘れるほど興味深いものだった。ジェネラルな月探査の歴史から非常に細かい月表層の温度分布に関するシミュレーションの話までその内容は幅広いものであった。月表層の熱伝導モデルを用いた研究を行っている私にとって、この分野の第一人者の講義を聞き、直接質問をすることができたことはとても大きな意味を持った。特に記憶に残っているのは、David教授の「これまでとこれからの宇宙探査」についてのレクチャーだった。第二次世界大戦後から70年代までの冷戦に駆動された宇宙探査の時代を、お金持ちで強いリーダーであるバットマンと複数人が平等的に協調するスタートレックとの対比を用いて説明した上で、現代において再びこのどちらの道を取るかの選択が迫られているという内容が印象的だった。
そして、この場で出会った同志たちとの時間はなにものにも変え難い。時には冗談を言い合い、時には真剣に課題に取り組み議論を交わした。私たちを繋いだ同じ関心である惑星地質学の話題で熱が入ったり、チェジュ島の海に浮かぶ漁船の光を眺めながら似ていないようで似ている文化や言語をすりあわせ盛り上がったりした。同じ分野において学を修める彼らとは今後も切磋琢磨していくことになるだろうと確信を持った。ここで会った仲間たちを永く大切にしたいと思う。

写真6

 

(以上)