研究チームは、アルマ望遠鏡の高い解像度によって、回転円盤にある高温ガスとそこから噴き出すジェットにある高温ガスを切り分けることに成功しました。今後さらにアルマ望遠鏡の高解像度化、高感度化、より高い周波数帯の観測が実現されることによって、電波源Iのより詳しい性質やその進化のなぞに迫ることができると期待されます。廣田氏は、「中心で生まれている星の質量によって、その周りの円盤の性質が大きく異なるということも重要な情報です。重たい星の周りのガス円盤は約3000度以上という高温になっているため、惑星のもとになるダストは溶けてなくなっていると考えられます。そのような環境でも惑星が生まれるのか、生まれるとしたらどのような惑星が生まれるのかなど、星の重さや環境の違いによる惑星系形成の違いという研究にも興味が持たれます。」、と将来の抱負を語っています。
本研究は科学研究費補助金(21224002, 24540242, 24684011, 25108005, 25120007)、ALMA共同利用PIサポートプログラム(NAOJ-ALMA-0006)による補助を受けて行われました。
本研究は ”Hot Molecular Circumstellar Disk around the Massive Protostar Orion Source I” というタイトルで、The Astrophysical Journal Letters 782号、L28(2014年2月20日発行)に出版されました。
今回の研究を行ったチームのメンバーは、以下の通りです。
観測の結果、電波源Iの近くでこれらの水分子からの電波放射を初めて検出し、高解像度でその姿を捕えることに成功しました。2つの電波のうち、温度1700度に対応する水分子からの電波放射は、一酸化ケイ素で観測されたジェットと似たような形状をしていることから、電波源Iからのジェットにある水分子が電波を放射していることが分かりました。
一方、温度2700度に対応する水分子の電波放射は、ジェットの根元にある電波源Iそのものと似たような構造をしていることが分かりました。しかも、その電波を放射するガスは円盤状の形をしており、回転速度は秒速約10kmという速さであることも明らかになりました。
既存の観測装置で高い空間分解能を得るためには、なるべく近くの大質量形成領域を観測するのがよい方法です。そして、最も近くにある大質量星領域がオリオン大星雲中にある「オリオンKL」という星雲です。オリオンKLは、太陽の8倍以上の質量をもつ大質量星が生まれつつある領域で、大質量星形成領域のなかでは太陽系から最も近い天体(約1400光年、参照1)です。そのため1967年の発見以来多くの研究がなされてきました。
本研究チームは、国立天文台の電波望遠鏡ネットワークVERAを用いて、オリオンKLの中心にある電波源Iの観測を継続して行ってきました。その結果、電波源Iの周囲から高速のジェットが噴き出している様子を一酸化ケイ素(SiO)分子からの強い電波放射(メーザー)の動きを調べることで明らかにしています。また、欧米のグループによる観測では、電波源Iは一酸化ケイ素のメーザーで見えるジェットの根元にあり、生まれたばかりの大質量星の周りに円盤状のガスが存在すると提唱されています。しかし、電波源Iの正体については論争が続いていました。オリオンKLの領域は大小さまざまなスケールのジェットがいろいろな方向に噴きだす複雑な構造をしており、これらの円盤やジェットの存在に反論を唱える研究例もあったのです。
太陽のような星(恒星)のなかでも、太陽の8倍以上の質量をもつ大質量星の形成過程は、中小質量星の形成過程ほど理解が進んでいません。大質量星は、中小質量星と同じように宇宙空間の希薄なガス(星間分子雲)が重力によって集まってできるのか、それとも星同士の合体など全く違う形成過程なのか、という簡単な疑問にさえ、まだはっきりと答えることができないのです。大質量星が生まれている星間分子雲のほとんどは、太陽系から遠く離れた場所にあります。星はガスやダスト(星間塵)の中で誕生しますから、星形成の現場を観測するためにはガスやダストそのものを観測できる電波望遠鏡による観測が不可欠です。また、詳しく観測するには空間分解能が高い電波干渉計による観測が有利です。しかし、これまでの観測装置では、感度や空間分解能が足りず、形成の現場を詳しく観測することができませんでした。