研究の着想

既存の観測装置で高い空間分解能を得るためには、なるべく近くの大質量形成領域を観測するのがよい方法です。そして、最も近くにある大質量星領域がオリオン大星雲中にある「オリオンKL」という星雲です。オリオンKLは、太陽の8倍以上の質量をもつ大質量星が生まれつつある領域で、大質量星形成領域のなかでは太陽系から最も近い天体(約1400光年、参照1)です。そのため1967年の発見以来多くの研究がなされてきました。

本研究チームは、国立天文台の電波望遠鏡ネットワークVERAを用いて、オリオンKLの中心にある電波源Iの観測を継続して行ってきました。その結果、電波源Iの周囲から高速のジェットが噴き出している様子を一酸化ケイ素(SiO)分子からの強い電波放射(メーザー)の動きを調べることで明らかにしています。また、欧米のグループによる観測では、電波源Iは一酸化ケイ素のメーザーで見えるジェットの根元にあり、生まれたばかりの大質量星の周りに円盤状のガスが存在すると提唱されています。しかし、電波源Iの正体については論争が続いていました。オリオンKLの領域は大小さまざまなスケールのジェットがいろいろな方向に噴きだす複雑な構造をしており、これらの円盤やジェットの存在に反論を唱える研究例もあったのです。

本研究チームは、アルマ望遠鏡のデータから、オリオンKLの電波源Iから高温の水蒸気が出す電波を検出することに成功しています(参照2)。このときのデータでは解像度が不十分だったために、高温の水蒸気を伴う分子ガスの正体を解明することはできませんでした。「そこで、アルマ望遠鏡によって取得した、より高解像度のデータを用いて、この分子ガスの正体を明らかにすることにチャレンジしました。以前のデータに比べ3倍以上高い解像度を達成しています」、と研究チームを率いる廣田氏は語ります。

研究チームが注目したのは、サブミリ波帯の2つの異なる周波数(321GHzと336GHz)にある水分子からの電波放射です。これらの電波放射は、それぞれ摂氏1700度、2700度の極めて温度が高いガスから放射されていると考えられています。電波源Iのごく近い場所の様子を調べるのに適していると考えられたためです。

アルマ望遠鏡の空中撮影写真VERA望遠鏡の配置図

図2.アルマ望遠鏡の空中撮影写真(左図、Credit: Clem & Adri Bacri-Normier (wingsforscience.com)/ESO)とVERA望遠鏡の配置図(右図)。