天の川銀河がどういう渦状の構造をしているのかを調べるのもVERAの科学目標のひとつです。僕が一番最初に距離測定に成功した天体はI05168というんですが、この天体は太陽から一番近い腕であるペルセウス腕に位置していることがわかったんです。しかも、その腕にそって特徴的な運動が見られるんですよ。回転成分を差し引いてもまだ運動成分が残って、数値的にも視覚的にも明らかに系統的なものが見られる。
うん、うん。
せっかくなので、ペルセウス腕全体で確かめて、その運動をもっともうまく説明できる天の川銀河のモデルを作れないだろうかと。そこで「天の川銀河には渦巻き状の構造と重力場がある」と仮定をおいて、どういう渦巻きが天の川銀河にあるかを、いろんなモデルをつくってシミュレーションしたんです。腕の巻き込み具合をきつく閉じたものから緩く開いたものに変えていって、もっとも観測と合うモデルを探しました。すると、天の川銀河の腕の数は4本、という結果になったんです。
あれっ?天の川銀河って4本腕でしたっけ?
いいツッコミですね。じつは確実にはわかっていないんです。光で見ても電波で見ても、つまり恒星でもガスでも明るいメインの腕は2本だと言われています。僕の研究では一応、ガスだと4本ある。電波でガスを見ると、もっと複数の腕があるのではないかと言われているんですが、それも含めてVERAで明らかにしたい。そのためには、VERAのデータだけでなく、恒星のデータを加える必要があるんです。
光で観測した恒星のデータが欲しいと。
はい。天の川銀河の円盤には、ガスよりも恒星の方がたくさんあるんです。だからここにたくさんモノがあって、さらにたくさんモノが引き寄せられるっていう渦巻き状の重力場を作っているメインとなるのは、ガスではなく、恒星です。
じつはこの青は渦巻き状の重力場を表していて、ここにたくさん恒星があるだろうというのが、僕の予想です。その重力場があったときに、ガスがどうやって分布するのか。僕はそれを調べたいんです。けっこうニッチな分野ですけど。
VERAや米国のVLBAを用いて、天の川銀河の3次元地図作りを行っています。銀河の中の渦巻き腕がお気に入りの構造で、腕の起源や進化の謎を解明することが研究テーマです。
趣味は旅先で現地の地図を集めたり、土地ごとの景色・人・言葉・食事・空気に触れることです。
肉眼(可視光)で見たときに渦状の構造を有する銀河を渦巻銀河と呼ぶ。 渦状の構造は「渦巻き腕」と呼ばれ、腕に沿ってガスやちりの塊である暗黒星雲や若い星々が観測される。銀河の腕は星々の誕生現場であるとともに、銀河の進化にも大きく関わっていると考えられている。
坂井さんが一番最初に距離測定に成功した天体(星形成領域)の名前。天体名は座標になっており天文学者が聞くと宇宙空間のどのあたりにあるかがわかる。ちなみに正式名称はIRAS05168+3634である。
天の川銀河の渦状腕のひとつ。明るい腕には名前がついている。ちなみに太陽系はオリオン腕にある。