キムさんの研究内容について教えてください。
私は大質量星がどうやって生まれるかを研究しています。太陽の10倍以上の質量を持つ重い星を大質量星と呼びます。軽い星が生まれるしくみはある程度わかってますが、大質量星については明らかになっていません。軽い星と同じように生まれてくるとか、いくつかの星が合体して重い星になるとか、いろいろな説はありますけど確実なことはわかってないんです。
どうやってそれを調べるんですか?
VERAやアルマ望遠鏡で、大質量星が生まれている可能性がある場所を観測して調べます。大質量星が生まれていそうな場所って、詳しく見られる場所は限られていて、そのひとつがオリオンKL領域と呼ばれる有名な分子雲です。オリオン座の小三ツ星の真ん中あたりにあります。
これは私の論文で、オリオンKL領域にあるSource I(ソースアイ)という天体を観測したものです。グレーの点はVERAで観測したメーザー源(増幅された強い電波が出ているところ)です。これに共同研究者である廣田朋也さんが、アルマ望遠鏡で同じ領域の分子を観測した結果を合わせるとこの図のようになります。
※Kim et al., 2019, ApJ, 872, 64
どちらも同じような蝶の形をしていますね。
そうなんです。
両方の観測結果が星の周りを回る円盤から吹き出す双極流の一部であることを示していて、これは中心にある重い星が、軽い星と同じメカニズムで生まれていることを裏付ける証拠になるんです。VERAとアルマ望遠鏡の高い分解能を用いて、生まれる星の近くの円盤や双極流の構造を詳しく見ることができました。
すごい!
私はこれを眺めて、ガスの流れがあって、ぐるぐる回って動いているイメージを立体的に考えてみたり、今日は計算だけやってみようと検証してみたり。でも実際に計算してありえない数字が出たら、そのイメージは違っているということ。似たようなものを見たときに他の人はどう考えてるんだろうって論文を探したり、「私はこう考えているんですけど、どう思いますか?」という感じで共同研究者の考えを聞いたり議論をしたりしています。普段はVERAのデータ解析や試験データの検証など業務がありますが、毎日ちょっとずつ、忙しい時はこれを見るだけでもいいので、1日に一度は必ず研究に触れるようにしています。
そんな風にして地道に研究を進めていくんですね。
ソウル出身。ソウル大学を卒業後、2005年に日本へ。東京大学大学院理学系研究科で修士、博士(理学)取得。現在は水沢VLBI観測所の特任研究員としてVERAの運用に携わりながら大質量星形成領域の電波観測・研究を行っています。 お酒はビールと辛口の日本酒が好き。休日には最近はじめたサーフィンを楽しんでいます。
国立天文台の電波観測プロジェクト。日本国内にある4つの電波望遠鏡を組み合わせて観測すると、直径2,300kmの望遠鏡と同じ性能を発揮することができる
東アジア・北米・ヨーロッパの国際共同プロジェクトにより、南米チリ・標高5000メートルのアタカマ砂漠で運用中の望遠鏡。直径7~12メートルの電波望遠鏡66台を組み合わせ、最大時で直径16kmにおよぶ1つの望遠鏡として活用する。写真:ALMA(ESO/NAOJ/NRAO)
原始星の円盤とは垂直方向に吹き出すガスの流れ
「Orion Source Iの回転円盤/双極分子流系での高エネルギーSiO分子線の検出」
「VERAを用いたOrion-KL領域のSiOメーザー観測」
VERAを使った観測でメーザー源の距離を正確に測定したことにより、ディスクと垂直方向に吹き出すガスの3次元構造と運動が明らかになった
主に水素分子からなる星間ガス雲。分子雲の中でも特に密度の濃い分子雲コアは星が誕生する母体となる