第19回目の意中の人は
亀谷收さん

島々をめぐる「サイトサーベイ」秘話

マダム

VERAの計画段階から深く関わってきた亀谷さん、なんと建設予定地を探し歩く担当のお一人だったそうですね!

亀谷

そうです。望遠鏡の建設が提案されているエリアの現地調査をすることをサイトサーベイと言います。現地へ実際に赴いて、諸々の条件を調査しながら建設地を探して回るわけです。

マダム

小林さんからは建設時の苦労話を聞きましたが、その前段階の話ですね。

亀谷

はい。VERA4局のうち1局は水沢に作ると決まっていたので、あと3局を国内のどこに作るか。VLBIの局としては水沢からなるべく離れた場所が良いので、石垣島が選ばれました。現地の役場へ行って協力を依頼し、情報をもらって現場に足を運び、周りの状況などを見ながら地道に候補地を探していきます。全島くまなくまわって調査した結果、建設できそうな場所を5箇所ほど見つけました。さらにアンテナを置く十分なスペースや、地下に固い岩盤があるかを調べます。

マダム

なんと、地面の下まで調べて回るとは。

亀谷

地下の様子は地電流を使って調べるんです。現在の場所は10mくらい掘れば固い岩盤があることがわかったので、あの場所に決まりました。

マダム

小笠原局はどうでしたか?

亀谷

水沢と石垣島を結ぶ基線から南北どちらかに離れている場所が良いので、父島が候補地になりました。ところが、その頃ちょうど空港建設計画が浮上して父島は建設NGになってしまったんです。母島でも候補地を探しましたが港湾施設が小規模なため断念。次善の策として八丈島を検討しましたが残念ながら天気が良くない。もう南側はあきらめて反対側につくろう、となって最有力候補になったのが、対馬です。

マダム

えっ、VERA対馬局の可能性があったんですか!?

亀谷

そう。対馬局だったかもしれない。実は、対馬につくると決めた直後にまた父島が建設OKになって…対馬で尽力いただいた方には大変申し訳なかったんですけど、ふたたび父島に戻した、という顛末がありました。

マダム

ご苦労があったのですね。ちなみに建設地に求める条件は何でしょうか?

亀谷

土地が平ら、岩盤が硬い、まわりが開けている、障害物がない、近隣の状況、アクセスの良さ…細かい条件はいろいろあります。天気は重要ですね。電波観測には水蒸気量の低いところがいいので、島に電波望遠鏡を作る場合はなるべく海から離して、少しでも高い山の上に作りたいわけです。父島局を山頂に作れないか調べたのですが、それだと海から見えてしまって環境保全上よろしくないということで、山頂から少し下った現在の場所に落ち着きました。

マダム

石垣島、父島…それぞれの島をくまなく調べてまわって一番大変だったことは?

亀谷

1990年代後半は出張ばかりでした。子育ての大事な時期に留守がちだったので妻が大変だったと思います。苦労かけたと思いますね。

観測棟の窓から20mアンテナが見える
観測棟の窓から20mアンテナが見える

記事公開日: 2020年5月12日

亀谷 收
氏名
亀谷 收 かめや おさむ
出身地
北海道生まれ
紹介

1956年帯広市出身、東京育ち。埼玉大学卒業後、東北大学大学院理学研究科で修士、大質量星形成領域の電波天文学研究で理学博士(1986年)。野辺山宇宙電波観測所研究員等を経て、1990年に国立天文台水沢に採用され、現在、水沢VLBI観測所助教。趣味は、合唱、フルート演奏(上手ではない)など。零式艦上戦闘機(ゼロ戦)が好き。1993年設立の日本宇宙少年団水沢Z分団の分団長を務めています。

VERA

日本国内にある4つの電波望遠鏡を組み合わせて観測すると、直径2,300kmの望遠鏡と同じ性能を発揮することができる。VERAの4局は水沢(岩手県)、小笠原父島(東京都)、入来(鹿児島県)、石垣島(沖縄県)にある。

VERA建設時の苦労話
小林秀行さん(VERAに夢中第15回)
VERA建設までの変遷
川口則幸さん(VERAに夢中第2回)
基線

望遠鏡同士を結ぶ線を基線という。ざっくり言うと、望遠鏡同士の距離を離すほど分解能が良くなり、望遠鏡の数を増やすほど精度が良くなる。

建設地に求める条件

候補地のシーイングや気候などの科学的条件のほかに、建設が進められる社会的条件も満たす土地を選定する必要がある

あれっ、入来局は?

鹿児島大学の関係者に場所を提案してもらって現在の牧場の中に望遠鏡を置くことになった