第19回目の意中の人は
亀谷收さん

周波数保護ってどういう仕事?

亀谷

私の仕事のひとつに「周波数保護」があります。人間の活動によって出される電波は天体から届く微弱な電波に比べてけた違いに強い。電波天文学にとって大きな影響があるんです。

マダム

街あかりで夜空が明るくなると星が見えにくくなりますが、電波もそれと同じなんでしょうか。

亀谷

同じですね。電波天文学は電波を出さずに受信するだけなので、どの周波数を観測してもいいんですが、周りで強い電波が出ていると観測にならないんですね。そこで、電波天文学でとくに重要な周波数帯域は守りましょう、そこでは電波を出さないようにしましょう、という取り決めがあるんです。私たちはこれを周波数保護と言っています。

観測したい周波数をアンテナごとに申請

亀谷

日本では総務省が国内の周波数割り当てを行っていますので、総務省に、こういう周波数を観測したいので保護してくださいと申請をします。アンテナごとに申請し、認められれば保護されるという流れです。

官報に掲載される(写真左)
官報に掲載される(写真左)
亀谷

こちらが「VERAの電波天文業務受信設備指定書」(写真右)です。VERAの場合は、観測で特に重要な水メーザーと一酸化ケイ素メーザー、アンモニア分子の出す電波について保護されています。この指定書が大事なんですよね。電波を放射する業者などと交渉する際、唯一拠り所にできるものです。

マダム

電波を出す側と受信する側で交渉が必要なんですね。

亀谷

はい。たとえばメタノールなどの炭素を含む分子やアンモニアからの電波を観測する周波数帯域は、衝突防止用の車載レーダーが出す周波数とピッタリ重なっているんです。電波天文学にとってこれらの電波は特に重要です。そうはいっても車の安全には変えられないですし、人命には変えられない。対立しているわけではなく、お互いにどうやったら共存できるかということを協議しています。

マダム

大事な仕事ですね。

亀谷

慣れないことが多く大変ですが、誰かがやらないといけない。国立天文台では周波数資源保護室でこの問題に取り組んでいます。地道な活動ですが、ちょっと知っておいて欲しいですね。

亀谷 收
氏名
亀谷 收 かめや おさむ
出身地
北海道生まれ
紹介

1956年帯広市出身、東京育ち。埼玉大学卒業後、東北大学大学院理学研究科で修士、大質量星形成領域の電波天文学研究で理学博士(1986年)。野辺山宇宙電波観測所研究員等を経て、1990年に国立天文台水沢に採用され、現在、水沢VLBI観測所助教。趣味は、合唱、フルート演奏(上手ではない)など。零式艦上戦闘機(ゼロ戦)が好き。1993年設立の日本宇宙少年団水沢Z分団の分団長を務めています。

周波数保護
総務省では電波法第56条第1項に基づき、国立天文台など十か所以上の電波天文業務の用に供する受信設備を指定し、これら受信設備の運用が阻害されてないよう措置している(総務省電波利用ホームページより)
電波天文業務の保護基準について
‐総務省(PDF)