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成果報告その他の報告

研究ハイライト

成果報告

日韓VLBIネットワークKaVAによる星形成大規模観測プログラム初成果:
高速ガス流を噴き出す巨大な赤ちゃん星たちの姿に迫る

 国立天文台水沢VLBI観測所では、日本国内VLBIネットワークVERAと韓国天文研究院KASI(Korea Astronomy and Space Science Institute)で運用されている韓国VLBIネットワークKVN (Korean VLBI Network)との共同研究ネットワークKaVA (KVN and VERA Array)による大規模観測プログラムを進めています。そのうちの1つ、星形成研究のプログラムでは、国立天文台、KASIも参加する国際共同プロジェクトのアルマ望遠鏡ALMA(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)のデータとも組み合わせ、大質量星団形成領域G25.82-0.17における複雑なアウトフローの構造について初めて解明しました。観測結果は、大質量星団でも太陽のような小質量星と似たようなプロセスで大質量星が形成されることを示しています。本研究は、今後の東アジアVLBIネットワークでの大規模観測プログラムによる大質量星形成研究の第一歩として重要な成果となっています。


背景

 太陽質量の8倍を超える重たい星「大質量星」は、強い放射や超新星爆発による重元素の放出などにより、星や惑星の誕生、銀河の進化において重要な役割を果たします。しかし、大質量星は太陽のような軽い星「小質量星」に比べて数が少なく、さらに太陽系からはるか彼方にある星団の中で生まれるため、高い解像度や感度の観測を行わなければならない、という困難があります。そのため、大質量の原始星(生まれたばかりの「赤ちゃん星」)の誕生メカニズムについては、未解明の問題が数多く残されています。

KaVAについて

 国立天文台水沢VLBI観測所は韓国天文研究院(Korea Astronomy and Space Science Institute, KASI)と超長基線電波干渉計(Very Long Baseline Interferometer, VLBI)ネットワークKaVAを用いた共同研究を2005年から進めてきました。KaVAは、国立天文台による日本国内4箇所の20 m電波望遠鏡によるVLBIプロジェクトVERA (VLBI Exploration of Radio Astrometry)と、韓国天文研究院による韓国にある3台の21 m電波望遠鏡を組み合わせたKVN (Korean VLBI Network) を組み合わせたKVN and VERA Arrayというネットワークです。長基線・高解像度のVERAと、短基線・高感度のKVNを組み合わせ、両者の特徴を生かした高画質のVLBI観測を可能にしました。

 KaVAに始まった東アジア地域でのVLBI観測網は、2018年、中国を加えたEAVN(East Asia VLBI Network)へと発展を遂げました(図1)。現在のVERAは、VERAのみによる観測に加え、KaVAでの観測、さらにEAVNでの観測も行われています。また今後、タイなど他のアジア地域の国々も参加を予定しています。

KaVA 星形成大規模観測プログラム

 本研究は、2015年から開始されたKaVA大規模観測プログラムの1つ、「KaVAを用いた水メーザー・メタノールメーザー観測による大質量星形成機構の解明」の最初の成果となります。「メーザー」とは「レーザー」光線のように宇宙空間で強く増幅された電波放射です。放射が強く、かつ、放射される領域がコンパクトなため、生まれたばかりの星のごく近くを電波干渉計で観測するのに理想的なツールとなっています。本プログラムは、一般の共同利用では困難な年間200時間の観測を3年間行うこと、国立天文台や韓国天文研究院も参加する国際共同プロジェクトのアルマ望遠鏡ALMA (Atacama Large Millimeter/submillimeter Array)など他の望遠鏡での多波長データを取得することにより、「大質量星にはどのようにして周辺から大量のガスが集まってくるのか」「大質量星が生まれる際に噴出される高速のガス流(アウトフロー)や、その中心に存在すると予言される回転ガス円盤がどのようにして形成されるのか」という謎の解明を目指した系統的な研究を進めています。

本研究の観測天体

 本研究では、KaVA大規模観測プログラムのターゲット25天体のうちの1つG25.82-0.17を取り上げました。G25.82-0.17は太陽系から約16,000光年離れたところにあり、いて座とわし座の間に位置するたて座方向の天の川の中にあります。KaVA 大規模観測プログラムの中でも、G25.82-0.17はメーザーが強く、かつ様々な速度で運動するガスから放射されていること、アルマ望遠鏡による高感度な観測データがあることから、大質量原始星の周辺環境を詳細に調べる最初のターゲットとしては格好の天体でした。

本研究の結果

 アルマ望遠鏡による観測により、G25.82-0.17では生まれたばかりの大質量原始星G25.82-W1 (アルマ望遠鏡によって検出されたG25.82(-0.17)西側(West)のミリ波天体1番)に加えて、星が生まれる前の高密度ガスや進化が進んだ電離ガスも存在し、形成途中の大質量星団であることが明らかになりました(図2)。G25.82-W1では、高温ガスからの電波放射で回転運動が捉えられ、回転による遠心力と重力の釣り合い(ケプラーの法則)から質量が太陽の25倍以上ということもわかりました。G25.82-W1は、確かに大質量原始星であると考えられます。

 さらに、G25.82-W1からは毎秒50 kmもの速度で南北(中心から上下)に吹き出すアウトフローも見つかりました(図2)。アウトフローと回転するガス(おそらく星周回転ガス円盤と関係)という構造は小質量原始星でもよくみられることが知られています。「今回の観測により、大質量星団形成領域G25.82-0.17の複雑な構造が解き明かされ、そこで生まれつつある大質量星が太陽のような小質量星と似たようなメカニズムで生まれていることが示されました。」とKaVA星形成大規模観測プログラムの韓国側共同代表である韓国天文研究院のキム ギテ氏は今回の結果の意義について述べています。

 大質量原始星G25.82-W1のごく近くには、KaVAで観測された水メーザーの放射が集中していました(図3)。南北方向のアウトフローが差し渡し50,000天文単位にも及ぶのに対して、水メーザーの分布は大質量原始星G25.82-W1から1000天文単位にしかなりません(それでも太陽・冥王星間の距離の20倍以上あります)。水メーザーは、大質量原始星付近から噴き出すアウトフローの根本に存在すると考えられています。「現在、KaVAで観測された新しいデータの解析を進め、この天体の3次元的な運動を捉えようとしています。これができれば、アウトフローがどのような機構で吹き出されているのかという星形成の大問題を解明できると期待されます。」と本研究を主導した総合研究大学院大学博士課程のキム ジョンハ氏はこれらの成果について語っています。

本研究の意義と今後

 本研究では、KaVA、およびアルマ望遠鏡を用いたG25.82-0.17の観測により、大質量原始星周辺の複雑な環境を初めて明らかにしました。KaVA星形成大規模観測プログラムの日本側共同代表である国立天文台水沢VLBI観測所・総合研究大学院大学の廣田朋也氏は、「今回の結果は、KaVA大規模観測プログラムが大質量星形成の詳細な研究に威力を発揮することを示した重要なステップです。今後は、中国やタイなどの新たな電波望遠鏡も含む東アジアVLBIネットワークによる共同研究により、さらに高い感度や解像度への観測を発展させていきたいと考えています。」と述べています。




本研究は、“Multiple Outflows in the High-mass Cluster-forming Region G25.82-0.17”というタイトルで、The Astrophysical Journal, vol 896, id 127として、2020年6月20日号に出版されました。
本研究は国立天文台、総合研究大学院大学、大妻女子大学、山口大学、Korea Astronomy and Space Science Institute, University of Science and Technology (韓国)、National Astronomical Research Institute of Thailand (タイ)、Shanghai Astronomical Observatory, Nanjing University (中国)、North West University (南アフリカ), University of Nigeria (ナイジェリア)による国際共同研究です。
また、本研究は科学研究費(No. 17K05398)の助成を受けて行われました。



図表


© 2020- The EAVN Collaboration

図1:東アジア地域のVLBIネットワーク配置図(クリックすると拡大表示されます)
 KaVAは日本のVERAと韓国のKVNの共同研究です。日本国内のVERAには岩手県奥州市(水沢)、鹿児島県薩摩川内市(入来)、東京都小笠原村、沖縄県石垣市に直径20 mの電波望遠鏡が、韓国国内のKVNではソウル市、ウルサン市、ソギポ市(済州島)に直径21 mの電波望遠鏡が配置され、直径2300 km (水沢-石垣間の距離)の電波望遠鏡と同じ解像度を達成します。KaVAは現在、日本、韓国、中国、タイなどと共同で、より強力な東アジアVLBIネットワークEAVNへと発展を続けています。





図2:今回観測されたG25.82-0.17のイメージ(クリックすると拡大表示されます)
 青はALMAによる波長1.3mmの一酸化ケイ素(SiO)からの電波放射で手前に向かって吹き出してくるガスを、赤は同じく一酸化ケイ素(SiO)からの電波で奥に遠ざかる方向に吹き出してくるガスを示しています。南北(上下)に加えて、北西と南東(右上と左下)方向にも淡く伸びるアウトフローが見えています。こちらについては現時点ではその起源は未解明で、今後の研究課題となっています。中心の緑色はALMAで観測された星間塵からの放射で、中心のオレンジに輝く場所が大質量原始星G25.82-W1です。この熱放射もよく見てみると、弱い放射のピークがいくつかあり、星団が形成されつつあることがわかります。





図3:G25.82-W1の想像図(クリックすると拡大表示されます)
 左図は、赤と青のイメージはALMAで観測された一酸化ケイ素(SiO)からの電波放射(図2参照)で、南北方向と北西-南東方向のアウトフローを表しています。中心に生まれたばかりの大質量原始星G25.82-W1があり、そのごく近くにKaVAで観測された水メーザーのグループが存在しています。右図はG25.82-W1中心付近の拡大図で、大質量原始星付近から強い水メーザーが放射されている様子を表しています。




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他機関でのリリース

2020.8.5更新




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