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成果報告その他の報告

研究ハイライト

成果報告

VERAプロジェクト20年の成果がまとまる
— 国立天文台水沢120年の歴史が達成した位置天文学の高精度化 —



概要

 国立天文台水沢VLBI観測所と鹿児島大学理工学研究科天の川銀河研究センターを中心とする研究チームは、国立天文台のVERAを用いた観測の成果を10本の論文にまとめ、2020年8月に出版された日本天文学会欧文研究報告(PASJ: Publications of the Astronomical Society of Japan)のVERA特集号“Astrometry Catalog and Recent Results from VERA”で発表しました。このうちの1本の論文“The First VERA Astrometry Catalog”では、これまでにVERAで観測された99天体の測量データを公開しました。より広い範囲を対象に位置天文観測を行うことで、今回の結果では天の川銀河の渦巻構造がはっきりと捉えられるようになりました。また、欧米の研究グループが観測した天体を含め計189天体の位置天文観測データを解析することにより、天の川銀河の基本的な尺度をより高い精度で決定することに成功しました。この結果では、太陽系から天の川銀河の中心までの距離(銀河中心距離)を25,800光年と求め、銀河回転速度が太陽系の位置において毎秒227kmであることを決定しました。なお、VERAによる位置天文観測のうちおよそ3割を占める終末期の星を、鹿児島大学の研究グループが中心となり観測しました。今後、VERAでは天文学上重要となる天体を中心にさらなる高精度な位置天文観測を進め、また東アジアVLBIネットワーク(EAVN: East Asia VLBI Network)などへの拡張も見据えさまざまな天体や研究テーマを対象とした新たな観測計画への発展をめざします。


1. VERAについて

 VERA(VLBI Exploration of Radio Astrometry)は、岩手県奥州市(水沢)、鹿児島県薩摩川内市(入来)、東京都小笠原村(小笠原)、沖縄県石垣市(石垣島)の4か所に設置された直径20mの電波望遠鏡からなる超長基線電波干渉計(VLBI: Very Long Baseline Interferometer)です(図1参照)。4つの電波望遠鏡のデータを組み合わせることで、水沢-石垣島間の距離と同じ大きさ(直径2,300km)の望遠鏡を実現し、高い解像度の観測によって天体までの距離や運動を精密に計測する「位置天文観測」を行っています。これら位置天文観測データを用いて、天の川銀河の3次元立体構造のほか、星の形成や進化、銀河中心の超巨大ブラックホールや超高速ジェットなどの研究を進めています。VERAは2000年代初頭の建設当初から、国立天文台と鹿児島大学が協力してプロジェクトを運営してきました。


2. VERAによる位置天文観測精度向上の取り組み

 VERAによる位置天文観測のためには、20年間の膨大なデータをどう速く精確に処理するかという課題がありました。この問題を解決するため、VERAデータ解析チームは専用のソフトウェアVEDA(ベーダ)を開発しました。この開発によって解析の自動化が進み、数多くの天体の距離を計測できるようになりました(A. 発表論文リストより、2. “VEDA: VERA data analysis software for VLBI phase-referencing astrometry”(Nagayama et al. 2020)に掲載)。

 20年近くにわたる経験に基づいた観測・解析方法を駆使することにより、VERAは世界トップレベルの天体位置測定精度10マイクロ秒角(=3億6000万分の1度)を達成しました。これは地球から月面におかれた1円玉を観測したときの見かけの大きさに相当します。この精度達成により、3万光年を超える天体の距離測定に成功し、これまでにない広大な領域で天の川銀河の地図作りが可能となりました(A. 発表論文リストより、3. “Performance of VERA in 10 micro-arcsecond astrometry”(Nagayama et al. 2020)に掲載)。

 国立天文台水沢の天体位置測定には120年の歴史があります。木村 榮(きむら ひさし)がZ項を発見した1902年当時の精度20ミリ秒角に対し、2020年現在の精度10マイクロ秒角は2000倍向上したことになります。(1秒角は1度の3600分の1の角度、1ミリ秒角は1秒角の1000分の1の角度)


3. 今回のPASJ VERA特集号について

 2002年の電波望遠鏡4台の完成以来、研究チームは観測や較正の方法を改良し位置天文観測精度を高めてきました。VLBIによる位置天文観測は、天体の距離を計測(=年周視差を計測)するため最低でも1年の時間を要し、また全観測データ取得後も解析やその精度評価などに多大な時間が掛かるという難点があります。精度向上のために導入した世界初の2ビーム同時受信システムや大気の揺らぎによる位置計測誤差の手法確立という挑戦すべき課題を解決し、VERAによる最初の位置天文観測の成果となる発表は完成から5年後の2007年となりました(https://www.miz.nao.ac.jp/veraserver/hilight/pub070711/)。

 しかし、その後は24時間体制での定常的な観測が精力的に行われ、これまでに日本天文学会欧文研究報告(PASJ: Publications of the Astronomical Society of Japan)における3回のVERA特集号(2008年、2011年、2014年)を中心に、約60本の論文として成果を発表しました。今回4回目となる2020年8月に出版されたVERA特集号“Astrometry Catalog and Recent Results from VERA”(図2)では、これまでに得られたVERAによる位置天文観測結果全てをまとめたカタログ論文の第一版をはじめに、完成から20年近くかけて行った観測精度向上のための検証結果や、星の誕生や進化に関する最新の研究成果など、10本の論文を発表しています(https://academic.oup.com/pasj/issue/72/4)。


4. VERAカタログ論文第一版と天の川銀河の精密測量の成果

 今回発表したVERAカタログ論文第一版(A. 発表論文リストより、1. “The First VERA Astrometry Catalog”(VERA collaboration et al. 2020)では、これまでにVERAで観測された99天体をすべて取りまとめました。このうち、21天体は今回の論文が初の公開となります。本論文出版時点では、VERAと欧米のグループを合わせると224天体の測定結果がありますが、このうちの約半数がVERAによるものです。

 今回、より広い範囲で多くの位置天文観測を行うことで、銀河の中心かららせんを描くように伸びる“腕”に沿って天体が分布していることがわかり、複数の腕を持つ渦巻銀河の姿として、天の川銀河をはっきりと捉えました(図3参照)。また、天体の運動を調べてみると、天の川銀河の外側に位置する天体でも場所によらずほぼ一定の速度で回転していることもわかりました。これは他の銀河と同様に、天の川銀河の外側にも大量のダークマターが存在するという既知の知見を肯定する結果となっています。

 さらに224天体のうち、天の川銀河の腕に存在し共に回転運動をしていると考えられる189天体の位置天文観測データについて、シミュレーションによる計算結果と詳しく比較することで、天の川銀河の基本的な尺度である銀河中心距離を25,800±1,100光年と求め、加えて太陽系の位置において銀河回転速度が227±11km/sを誤差5%の精度で決定することに成功しました。今回得られた太陽系から銀河中心までの距離は、従来考えられてきた1985年の国際天文学連合の推奨値約27,700光年より小さくなっています。

5. 鹿児島大学との協力について

 鹿児島大学は、1990年代におけるVERA計画の策定当初から国立天文台と協力してきました。当時は、錦江湾公園(鹿児島県鹿児島市)に移設された口径6mミリ波電波望遠鏡(現在は東京都三鷹市に設置、日本天文遺産に認定)を運用して、VLBI観測の経験を積み上げてきました。2002年にVERA入来局が完成すると、観測局の共同運用を開始しました。

 高性能の電波望遠鏡を使った定常観測や日常・定期保守、データ処理ソフトウェアの開発や査読論文発表には多くの学生が関わり、毎年10名以上の学部卒業生や大学院修了生を輩出してきました。海外からの留学生も受け入れ、その中には研究者として現在も活躍されている人がいます。

 鹿児島大学のチームは、公開された99天体のVERAによる位置天文観測データの約3割(28天体)を担っています。鹿児島大学が主導して行った研究も複数あり、ここでは1例として、激しい物質放出を伴う終末期にある星の研究を挙げておきます。VERAによる星の距離の高精度な決定により、これら星々の絶対的な明るさと周期的な明るさの変化の関係を正確に把握できます。一方、鹿児島大学が運用する口径1m光赤外線望遠鏡を用いた長期間におよぶ観測結果から、星の見かけの明るさと変光の周期の関係を組み合わせることで、同種の変光星についてさらに多くの星の距離を推定することが可能になります。結果、天の川銀河の中で散らばる星々の分布を、今後、さらに詳細に把握する基礎を構築しました。

 現在では、このような星々からの物質が激しく放出される様子を、動画として捉える取り組みも進んでいます。これはVERAを含む東アジアVLBIネットワーク(日本、韓国、中国)の連携により進められています。鹿児島大学では、VERAの共同運用と研究の実績を踏まえ、さらに他の望遠鏡による観測や理論研究を強力に進める組織として、2019年1月に理工学研究科附属天の川銀河研究センターが発足しました。鹿児島大学は今後も、VERA入来局を利用した観測を含め、電波天文学を中心とした国際交流・国際連携を進めていきます。


6. 今回の成果の意義と将来への展望

 今回得られた銀河中心距離25,800±1100光年は、従来考えられてきた1985年の国際天文学連合の推奨値約27,700光年より小さくなっています。今回の結果は年周視差に基づいた非常に信頼性の高い測定であり、従来の基本尺度へ改訂を迫るものです。一方、超巨大ブラックホールいて座A∗周囲の天体の軌道解析により2019年に発表された推定値25,800∼26,600光年ともよく一致しています。これは、ブラックホールいて座A∗が銀河回転の力学的な中心に位置することを示唆します。現在、VERAはいて座A∗の距離測定に挑戦しており、今後、天の川銀河の中心ブラックホール研究の進展が期待されます。

 VERAによる世界最高精度の位置天文観測は引き続き重要な役割を担うことが期待されています。今後は人工衛星も加えた位置天文観測とも協力し、天文学の発展において重要となる天体などを中心に、さらなる高精度な位置天文観測を推進する計画です。また、VERAは東アジアVLBIネットワークでも引き続き中心的な役割を担うことが要望されています。東アジアVLBIネットワークの拡張による高感度化・高解像度化も見据え、2020年代は位置天文観測に留まらずさまざまな天体や科学的テーマを対象とした新たな観測計画への発展をめざして、VERAの4局を活用した研究を引き続き推進します。


7. 今回の成果に参加した研究グループ

 本研究には、国立天文台や鹿児島大学をはじめとした、国内外計23の大学、研究機関からの計87名が参加しています。うち、国立天文台所属は29名、鹿児島大学所属は32名となっており、国内の大学院生・学部学生29名(鹿児島大学25名、広島大学2名、東京学芸大学1名、総合研究大学院大学1名)も本研究に参加しています。また、海外10か国11機関に所属する研究者との国際共同研究でもあります。


A. 発表論文リスト

 今回の成果は、2020年8月に出版された日本天文学会欧文研究報告(PASJ: Publications of the Astronomical Society of Japan)のVERA特集号“Atrometry Ctalog and Recent Results from VERA”において、以下の10本の論文として発表されています(https://academic.oup.com/pasj/issue/72/4)。

  1. “The First VERA Astrometry Catalog”,
    VERA collaboration, Tomoya Hirota, Takumi Nagayama, Mareki Honma, Yuuki Adachi, Ross A Burns, James O Chibueze, Yoon Kyung Choi, Kazuya Hachisuka, Kazuhiro Hada, Yoshiaki Hagiwara, Shota Hamada, Toshihiro Handa, Mao Hashimoto, Ken Hirano, Yushi Hirata, Takanori Ichikawa, Hiroshi Imai, Daichi Inenaga, Toshio Ishikawa, Takaaki Jike, Osamu Kameya, Daichi Kaseda, Jeong Sook Kim, Jungha Kim, Mi Kyoung Kim, Hideyuki Kobayashi, Yusuke Kono, Tomoharu Kurayama, Masako Matsuno, Atsushi Morita, Kazuhito Motogi, Takeru Murase, Akiharu Nakagawa, Hiroyuki Nakanishi, Kotaro Niinuma, Junya Nishi, Chung Sik Oh, Toshihiro Omodaka, Miyako Oyadomari, Tomoaki Oyama, Daisuke Sakai, Nobuyuki Sakai, Satoko Sawada-Satoh, Katsunori M Shibata, Makoto Shizugami, Jumpei Sudo, Koichiro Sugiyama, Kazuyoshi Sunada, Syunsaku Suzuki, Ken Takahashi, Yoshiaki Tamura, Fumie Tazaki, Yuji Ueno, Yuri Uno, Riku Urago, Koji Wada, Yuan Wei Wu, Kazuyoshi Yamashita, Yuto Yamashita, Aya Yamauchi, Akito Yuda, PASJ, 72, 50, 2020
  2. “VEDA: VERA data analysis software for VLBI phase-referencing astrometry”,
    Takumi Nagayama, Tomoya Hirota, Mareki Honma, Tomoharu Kurayama, Yuuki Adachi, Yoshiaki Tamura, Yukitoshi Kanya, PASJ, 72, 51, 2020
  3. “Performance of VERA in 10 micro-arcsecond astrometry”,
    Takumi Nagayama, Hideyuki Kobayashi, Tomoya Hirota, Mareki Honma, Takaaki Jike, Mi Kyoung Kim, Akiharu Nakagawa, Toshihiro Omodaka, Tomoaki Oyama, Daisuke Sakai, Katsunori M Shibata, Yoshiaki Tamura, PASJ, 72, 52, 2020
  4. “Vertical structure and kinematics of the Galactic outer disk”,
    Nobuyuki Sakai, Takumi Nagayama, Hiroyuki Nakanishi, Nagito Koide, Tomoharu Kurayama, Natsuko Izumi, Tomoya Hirota, Toshihiro Yoshida, Katsunori M Shibata, Mareki Honma, PASJ, 72, 53, 2020
  5. “Astrometry of H2O masers in the W48A (G35.20-01.74) II region with VERA: A compact disk outflow inside core H-2a”,
    James O Chibueze, Takumi Nagayama, Toshihiro Omodaka, Masayuki Nagano, Koji Wada, Ken Hirano, PASJ, 72, 54, 2020
  6. “Star formation rates in the L1482 filament of the California molecular cloud”,
    Toshihiro Omodaka, Takumi Nagayama, Kazuhito Dobashi, James O Chibueze, Akifumi Yamabi, Yoshito Shimajiri, Shinnosuke Inoue, Shota Hamada, Kazuyoshi Sunada, Yuji Ueno, PASJ, 72, 55, 2020
  7. “Annual parallax measurement of the Mira variable star BX Camelopardalis with VERA”,
    Masako Matsuno, Akiharu Nakagawa, Atsushi Morita, Tomoharu Kurayama, Toshihiro Omodaka, Takumi Nagayama, Mareki Honma, Katsunori M Shibata, Yuji Ueno, Takaaki Jike, Yoshiaki Tamura, PASJ, 72, 56, 2020
  8. “Trigonometric parallax of O-rich Mira variable star OZ Gem (IRAS 07308+3037): A confirmation of the difference between the P-L relations of the Large Magellanic Cloud and the Milky Way”,
    Riku Urago, Ryohei Yamaguchi, Toshihiro Omodaka, Takumi Nagayama, James O Chibueze, Masayuki Y Fujimoto, Takahiro Nagayama, Akiharu Nakagawa, Yuji Ueno, Miho Kawabata, Tatsuya Nakaoka, Kengo Takagi, Masayuki Yamanaka, Koji Kawabata, PASJ, 72, 57, 2020
  9. “FLASHING: New high-velocity H2O masers in IRAS 18286-0959”,
    Hiroshi Imai, Yuri Uno, Daichi Maeyama, Ryosuke Yamaguchi, Kei Amada, Yuhki Hamae, Gabor Orosz, Jose F Gomez, Daniel Tafoya, Lucero Uscanga, Ross A Burns, PASJ, 72, 58, 2020
  10. “Astrometry and infrared observations of the Mira variable stars AP Lyncis, V837 Herculis, and BX Camelopardalis: Implications for the period-luminosity relation of the Milky Way”,
    James O Chibueze, Riku Urago, Toshihiro Omodaka, Yuto Morikawa, Masayuki Y Fujimoto, Akiharu Nakagawa, Takahiro Nagayama, Takumi Nagayama, Ken Hirano, PASJ, 72, 59, 2020


B. 助成金リスト

VERAを用いた研究の一部は、以下の研究費の補助を受けて行われています。





図表


© 2020- 国立天文台

図1:VERAの局配置図。(クリックすると拡大表示されます)




© 2020- Oxford University Press

図2:PASJ特集号の表紙。(クリックすると拡大表示されます)




© 2020- 国立天文台

図3:VERAを含むVLBI観測で得られた224天体の分布(色のついた矢印)と天の川銀河の渦巻き構造の想像図(背景の画像)。(クリックすると拡大表示されます)
 同じ色の矢印で表している天体は、同じ腕に所属している。従来の想像による渦巻腕(想像図とそれに重ねて描いた黒い曲線)と今回の直接観測による渦巻腕に沿った天体の分布や回転運動がよく一致していることが明らかになりました。




関連するウェブサイト


報道機関向け各種資料


他機関でのリリース

2021.2.1更新




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