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成果報告その他の報告

研究ハイライト

成果報告

VERAによる天体精密距離測定の成功について
 ‐もっとも遠い天体の距離測定ならびに世界最高精度の観測を達成‐

S269 ‐ 年周視差の世界新記録の達成

 S269(シャープレス269)はオリオン座の方向にある、若い星が生まれている領域(星形成領域)です(図1)。今回VERAによって、S269内の天体の年周視差を検出することに成功しました。
その結果、年周視差は189 ± 8マイクロ秒角(約2000万分の1度)、天体の距離は1万7250 ± 750光年と求められました。これは、これまでに測定された最小の年周視差であり、言い換えると、人類が三角測量を用いて計測した最も遠い距離になります(これまでの記録は9050光年でした)。年周視差は1838年にベッセルが白鳥座61番星で初めて計測して以来多くの星で観測されていますが、その計測記録のトップに今回初めて日本が立つことになり、最新技術を結集したVERAの高い能力を示すことになりました。

 また、今回の観測から、S269の位置太陽系から1万7250光年、銀河系中心から4万2700光年)での銀河系の回転速度を計測することにも成功しました。
得られた回転速度は、銀河系の星の質量から期待される回転速度よりも大きく、太陽系とS269の間の領域にも大量の暗黒物質(ダークマター)が存在していることも明らかになりました(図2)。具体的には、S269よりも内側の領域(銀河系中心から4万2700光年以内)の質量が約1200億太陽質量で、その30%に相当する約360億太陽質量が暗黒物質であると推定されます。これらの結果は、日本天文学会欧文報告に掲載予定(Honma et al. 2007, PASJ, vol.59, No.5, Oct. 25 issue, in press)で、また、米国Science誌のEditor's Choice欄でも紹介される予定です。

図1:S269の位置関係図(左)と、その赤外線画像(右上)、およびVERAの測定結果(右下)
VERAの結果では、S269の最も明るい電波源の東西方向の動きを示してある。●が観測点で、年周視差の効果により1年周期で変動している。実線の曲線が、観測点を最も良く再現する年周視差+直線運動の曲線。ここから年周視差が189マイクロ秒角と求められた。点線は、年周視差がない場合の動き(直線運動)で、ここからS269の銀河系中心に対する回転運動速度が得られる。



図2:銀河系の回転速度と銀河系中心距離の関係(回転曲線)
S269の観測によって求まった銀河系の回転速度を赤色で示してある。この領域のこれまでの観測精度に比べて極めて高い精度で回転速度が求まっている。これまでの結果も合わせると、銀河系の回転速度は場所によらずほぼ一定である。暗黒物質が無い場合の回転速度はこの観測と矛盾するので、太陽系からS269にかけての領域にも大量の暗黒物質が存在していると示唆される。


 VERAによる天体精密距離測定の成功について
 成果1: S269 ‐ 年周視差の世界新記録の達成 (このページです)
 成果2: Orion-KL ‐ 銀河系でもっとも重要な天体について世界最高の距離精度を達成

 三角測量と年周視差
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