じつは、僕の大学院生の日々は暗黒時代だったんです。まわりの人たちがどんどん論文を出しているなか、僕は5年間、成果がひとつも出なかった。正直つらかったです。まわりが心配して、成果が出やすいテーマをやってみないかって勧めてくれたりもしました。それは安全な道だったかもしれないけれど、でも自分は絶対イヤだった。「これは自分がいたからこそできた成果だ」って思えることがしたかったんです。
安全策はとらなかったんですね。
というわけで、宇宙のいろんなブラックホールを観測してみると、人間と同じようにブラックホールにもそれぞれ性格があることがわかりました。たとえば、すごく活発にジェットを吹き出していて「自分を見せびらかしたい」っていうブラックホールがいます。僕は肉食系ブラックホールって呼んでいるんですけれども(笑)。一方で、「あんまり僕のこと見ないで」みたいな奥ゆかしいブラックホールがいたりする。こっちを草食系と呼んでいます。そうかと思うと、ほとんど活動していない「絶食系」のブラックホールもいたりするんですよね。
性格診断みたいで、おもしろいです。
秦さんといえばブラックホール!研究内容について教えていただけますか。
研究はVLBIを使ってブラックホールの観測をしています。たくさんある銀河を人にたとえると、VLBIというのはある特定の人だけにクローズアップして、その人をすみからすみまで観察するっていう望遠鏡なんです。その人を頭のてっぺんから足の先までずーっと見ていくと、ジェットの形とか、スリーサイズとかが鮮明にわかる(笑)。だから僕がブラックホールを観測するときは、その天体と会話をするような感じです。「おまえはどんなやつなんだい」と。
はじめに秦さんの現在のポジションとお仕事内容について教えてください。
僕は水沢VLBI観測所の助教として、VERAを使った新しい研究を推進する役を担当しています。いま一番力をいれているのが韓国、中国と一緒にアジア全体でひとつのVLBIのネットワークを作って新しい観測をしましょう、という「東アジアVLBIネットワーク計画」です。
国際協力プロジェクトですね。日本と韓国、中国と聞くと、政治的には複雑な関係という印象があるかもしれませんが、天文学の世界では団結して協力しあってやっているというのは興味深いことですね。