20160520

参考

【晩期星研究グループ】

趙世衡(チョ・セヒョン; 韓国天文研究院電波天文本部 研究員、晩期星研究グループ韓国側リーダー)

今井裕(いまい ひろし; 鹿児島大学学術研究院理工学域理学系 准教授、晩期星研究グループ日本側リーダー)

尹榮珠(ユン・ヨンジュ; 韓国天文研究院電波天文本部 専任研究員)

金載憲(キム・ジェホン; 韓国天文研究院電波天文本部 博士研究員)

朝木義晴(あさき よしはる; 国立天文台チリ観測所 准教授)

本間希樹(ほんま まれき; 国立天文台水沢VLBI観測所)

 

【発表論文】

題名: SiO Masers around WX Psc Mapped with the KVN and VERA Array (KaVA)

掲載誌: 米国天体物理学論文誌(The Astrophysical Journal), vol. 822, No. 1, p3 (2016)

著者: Youngjoo Yun, Se-Hyung Cho, Hiroshi Imai, Jaeheon Kim, Yoshiharu Asaki, et al.

今後の展望

3つのKaVAの主要研究グループが2015年から2016に掛けて大型観測事業を開始しました。そのうち、本研究をリードしてきた晩期星研究グループは新たに大型観測事業推進チームを発足させ、今後数年(星の変光周期の2—3倍の期間に相当)にわたって連続撮像する星の選別のための大規模な観測に着手しました。2017年からは、選別された星々に対してそのような観測を継続する予定です。また、同じく日韓共に運用に参加している南米チリにあるALMA(Atacama Large Millimeter-submillimeter Array)との共同連続撮像により、メーザー以外の電波放射も撮像することになり、星周縁のダイナミックな全貌を解明することを目指します。

意義

メーザー放射は特殊な物理条件(ガスの密度・温度・メーザー放射をする分子の割合)でのみ実現します。そのようなメーザーのうち、励起に必要な温度が大きく異なるはずであるv=1およびv=2のSiOメーザーがほぼ同じ部分で見られることが分かり、この条件を満たす仕組みを説明する物理解釈モデルに非常に強い制限が与えられます。さらに、これらメーザー放射域の相対位置が、星の明るさと共に変化するのではないかという指摘があります。今回の観測ではその変化までも正確に捉えられる可能性を実証しましたが、そのために要する複数の観測手法がVERAとKVNの組み合わせによって一回の観測で同時実行できます。このような観測を今後連続的に実施すれば、星の最終進化における物質放出の観測的研究で世界をリードすることができます。

今回の研究成果は、KaVAを主導する3つの研究分野(星形成、晩期星、活動銀河中心核)が5年間掛けて行われてきた重要研究課題への取り組みによって得られた初期成果の一つです。これをもってKaVAの準備事業が完了し、上記連続撮像を含めた大規模な観測研究の機会がKaVAで実現し、KaVAが世界の研究者に対して公開されることになります。こうして、電波天文学において世界的に独特な地位を、KaVAは築くことになるはずです。

 

得られた結果

 うお座WX星の2種類のSiOメーザー放射(振動励起状態 v=1およびv=2、いずれも波長約7 mmの電波)の精密な強度分布が得られ、中心星を取り巻く様にリング状の分布が鮮明に描き出されました(実際は球殻状のガス分布を輪切りしたような形状で光っている)。さらに、これら2種類メーザー放射の分布がとても似ており、お互いにほぼ近接して光っていることも分かりました。この類似した分布は、星の周期的な明るさの変化に伴って少しずつ変化するはずです(星の直径の1/100程度)。今後の観測でそのような変化を追跡できるような性能をKaVAが持っていることを、今回実証することができました。

 

今回の観測

 メーザーの画像からガスの運動や物理的な性質に関する情報を得る為には、同じSiO(一酸化珪素)の電波でも異なる波長のメーザーについて同時撮影し、それらを同じフレームに高精度で重ね合わさなければなりません。日本のVERAは、メーザー源の位置を精密に測定できるユニークな装置です。一方VERAとKVNを組み合わせた日韓共同VLBI観測網(KaVA)を用いると、VERAだけでは捉えられない様々な明るさや形状を持ったメーザーの塊状放射(=メーザースポット)を撮影できます。今回、将来の連続撮像を見越して、うお座WX星に見られるSiOメーザーの撮像を実施し、短時間で充分な画質が得られるか、異波長メーザー放射像の合成が可能かを試験しました。

研究の背景

寿命が数千万年年—数十億年に及ぶ星々は、その終末期のわずか数千年のうちに自身の質量の半分にも及ぶ大量の物質を星間空間にまき散らすことが知られています。しかし、これらの星々があまりにも遠方にあるため、このような物質が星表面近くから放り上げられ星間空間へと加速され飛んで行く様子を直接観測することは、長年困難でした。VLBIの手法を使えば、このようなガス流中に見られるメーザー放射を高解像度で撮像できますが、大掛かりな観測となると、何度も連続して撮像することはできませんでした。
 近年、日韓それぞれのVLBI専用電波望遠鏡群を組み合わせて、このような長年困難な連続撮像を実行するための準備が進められてきました。その一環として、今回、うお座WX星に見られるSiO(一酸化珪素)メーザーの撮像に取り組みました。

研究の概要 「日韓共同VLBI観測網本格運用開始 ― うお座WX星周囲に見られる一酸化珪素メーザーの 高画質2色撮像に成功 ―」

2011年から準備を進めてきた日韓共同VLBI観測網「KaVA」(KVN and VERA Array) を用いて、うお座WX星を取り巻くガスから放射される一酸化珪素(SiO)メーザーの複雑な形状を鮮明に撮影することに成功しました。韓国と日本が誇る最新鋭の電波望遠鏡群を組み合わせた世界トップレベルの性能を実現するこの観測システムは、この成果をもってその構築を完了したことになります。そして、今まで極めて困難だった天体電波の数年越しに及ぶ高画質連続撮像を可能としました。今後KaVAを用いて大規模な観測を展開し、太陽のような星々が大往生を遂げつつ次世代の星々を作る材料を宇宙にまき散らす仕組みの解明を目指します。

コンテンツ配信