参考

【晩期星研究グループ】

趙世衡(チョ・セヒョン; 韓国天文研究院電波天文本部 研究員、晩期星研究グループ韓国側リーダー)

今井裕(いまい ひろし; 鹿児島大学学術研究院理工学域理学系 准教授、晩期星研究グループ日本側リーダー)

尹榮珠(ユン・ヨンジュ; 韓国天文研究院電波天文本部 専任研究員)

金載憲(キム・ジェホン; 韓国天文研究院電波天文本部 博士研究員)

朝木義晴(あさき よしはる; 国立天文台チリ観測所 准教授)

本間希樹(ほんま まれき; 国立天文台水沢VLBI観測所)

 

【発表論文】

題名: SiO Masers around WX Psc Mapped with the KVN and VERA Array (KaVA)

掲載誌: 米国天体物理学論文誌(The Astrophysical Journal), vol. 822, No. 1, p3 (2016)

著者: Youngjoo Yun, Se-Hyung Cho, Hiroshi Imai, Jaeheon Kim, Yoshiharu Asaki, et al.

出版日:2016年4月25日

 

 【用語解説】

  • VLBI (Very Long Baseline Interferometer, 超長基線電波干渉計)

数百~数千km離れた複数の電波望遠鏡で同時に同じ天体を観測し、各電波望遠鏡間の距離に相当する口径を持つ巨大な仮想望遠鏡を構成する方法です。一般に、電波干渉計の解像度は望遠鏡間の距離に比例して向上します。VLBIを用いるとハッブル宇宙望遠鏡やすばる望遠鏡などの大型光学望遠鏡より数十倍以上の高い解像度で天体を観測することが可能です。現在、VLBIはうお座WX星に見られるような星周メーザーの空間分布を解像することができる唯一の装置です。ただし、望遠鏡数が少ないと、観測している視野の中で最も眩しいメーザー放射が見られる部分しか撮像ができません。日韓の電波望遠鏡群を組み合わせることにより、淡く広がったメーザー放射も含めて様々なコントラストを持つ電波写真を合成することができ、星周ガス縁の全貌を明らかにすることができるようになります。今回の成果によって、それが実証されました。

 

  • うお座WX星

太陽質量の1 – 8倍の質量を持つ星が進化の最終段階に入ると、星が膨張して力学的に不安定になり、星の大きさの変化(脈動)に応じて星の明るさが規則的に変化(変光)すると共に星を形作っていた物質を星間空間に大量に放出するようになります。この段階の星は漸近巨星枝星と呼ばれ、星が形成される際に見られる進化とほぼ逆行するように進化を遂げた段階に達しています。膨張した大気の上空に吹き出された物質から成る「星周縁」が発達し、この中で形成された一酸化珪素(SiO), 水(H2O), 水酸基(OH)の分子を大量に含むガスから強いメーザーが放射されます。今回観測したうお座WX 星は、地球から約1900光年離れた所にあり、約660日周期の規則正しく変光しており、上記の3種類のメーザーが見られる代表的な天体です。膨れ上がった星とはいえ、視直径が10ミリ秒(1/360,000度)しかありません。一方メーザー放射は、多数のより細かいスポット(=メーザーを地球方向へ放射する高密度ガス塊)の集まりとして観測されます。そのようなメーザースポットの分布を解像し、それらの動きからその星周辺で起きている複雑なガスの動きを視覚化できれば、大量の物質放出に伴う星の進化を追跡することができます。それを可能にするためには、KaVAのような非常に高い解像度を実現するシステムで観測する必要です。