第2回目の意中の人は
川口則幸さん

いよいよ天文台へ

川口

1989年にスペースVLBIチームが立ち上がったんです。それで郵政省から「文部省に出向を命ずる」と出向辞令が出ました。片道切符の出向です(笑)。

スペースVLBI(はるか)では、宇宙に電波望遠鏡を打ち上げて、受信してサンプリングして、データを地上におろして、テープに記録するシステムと、三鷹でいまも使っている相関器を作りましたね。

  作り上げた相関器
作り上げた相関器
マダム

はるかの受信機や地上との通信システムを開発されて、次はいよいよVERAですか?

川口

VERAです!と言いたいところですが、その前に博士論文を書いた。私は修士のときに国家公務員試験で研究機関に入ったので、博士論文を書いていない。ここで、はるかの観測データを使って博士論文を書かせていただきました。

ちなみに博士論文を書いたのは、たったの1ヶ月ですよ。後輩に任せられるよう仕事の道筋をつけて、1ヶ月だけ時間をやると言われて、家にこもって朝から晩まで書きまくったのが私の博士論文だよ。まいったね。

マダム

い..1ヶ月~?!

VERA2ビームアンテナの発案

川口

博士論文は「大気の揺らぎ」がテーマだったんです。VLBIに非常に大きな影響を与える。はるかを使った観測で、どういう揺らぎがどうあるかを全部解明したんです。その研究の中から、2ビーム方式をやれば完全に大気の揺らぎが除けるとわかって、VERAでそれを実現させていただけた。ありがたいね。

マダム

はるかの研究成果が生かされたのですね。VERAアンテナについては色々な案が検討されたと聞きましたが。

川口

最初はアンテナ4台を2局に計8台つくるという案でした。計8台なら4局に2台ずつのほうが良いので4局体制でやることになった。でも予算内で8台作ろうとすると15mくらいの小さいアンテナを8台作るしかない。それよりは20mアンテナを4台つくって2ビーム方式をやった方がいいですよ。

マダム

アンテナは大きくできるし節約にもなる。1台で2度おいしい、素晴らしいアイデアですね♡

川口

世界中で他にない方式だからね。でも私は、いまの2ビーム方式が最適だとは思っていないんです。お金がないから仕方なく2ビームにしたわけで、本当だったら4ビームだとか、もっとたくさんのビームをやるべきだったと思うよ。

マダム

1台のアンテナでそういうこともできるんですか?

川口

できるできる。私の最終案は100ビームぐらいですよ。

マダム

100ビームとか究極すぎる!

川口

メーカーにお金さえ出せば作っていただける望遠鏡ではおもしろくないよ。誰も作ってないからおもしろいんであって、それが私なんですけどね。

マダム

それが川口さんのこだわりでしょうか。

川口 則幸
氏名
川口 則幸 かわぐち のりゆき
出身地
岐阜県生まれ
紹介

1977年から37年間、ひたすらVLBIに関連する研究を進めてきました。
観測装置の開発が主で、他の電波天文観測システムにはないVLBIに特有の装置、水素メーザ原子時計や磁気記録装置、相関処理装置の開発を行ってきました。
観測成果では、太平洋プレート運動の検出や世界で初めてのスペースVLBI観測の成功、VERA計画での年周視差計測の成功などが挙げられます。

スペースVLBI はるか

電波望遠鏡となる人工衛星「はるか」を宇宙に打ち上げて、VLBI観測を行った。人工衛星の軌道(地球直径の約3倍)の大きさの電波望遠鏡で観測するのと同等のデータを得られる。(画像:JAXA)

VERA 2ビームアンテナ
2ビームアンテナ機構

焦点部に2つの受信機が設置され、最大2度離れた天体を同時に観測できる。世界に例がない画期的なシステム。