第21回目の意中の人は
平野賢さん

いかに経費を抑え保守するか

マダム

水素メーザー原子時計はVERAの4局(水沢・小笠原・入来・石垣島)それぞれにあるのですか。

平野

はい。各局に同じものがあり常に予備も持っています。装置のメンテナンスはメーカーが行いますが、一台につき数か月の期間と高額な費用がかかるため、4局分を毎年メンテナンスに出すことは困難です。そこで、状況を見極めつつ、いつどのタイミングでメンテナンスするか計画を立て、管理することが私の仕事です。

マダム

経費を抑え、観測スケジュールへの影響を考え、なおかつ壊さないように。平野さんのサジ加減が非常に重要な仕事ですね。

こちらが水沢局の水素メーザー原子時計
こちらが水沢局の水素メーザー原子時計
平野

そうですね。少しでも経費を抑えるために、観測機器の製作やメンテナンスはなるべくメーカーに頼らず、できる限り自分たちで行うようにしています。じつは最近まで、20mアンテナを正確な時刻の元で駆動させるための装置開発に取り組んでいました。TSU(Time Synchronous Unit)という装置ですが、私が主担当になり、3年がかりでやっと完成にこぎつけたんです。

マダム

あの……経費削減のためとはいえ、メーカーに発注する案件なのでは?

平野

まあ……そうなんですが、メーカーの立場になれば、すでに製造していない機器をどうにかして欲しいと言われても、新しいシステムに丸ごと交換しましょう、という提案になるわけです。でもそうなると莫大な費用がかかる。VERAは運用開始から20年近く経っているため、メーカー製の純正部品や装置の多くが入手できなくなっているんです。「TSU」はVERA特有の装置で、これがないとアンテナが動きません。このままだと天文台内の予備品も尽きてしまう。そうなるともうVERAの運用を止めるしか……。

マダム

そんなーっ!(泣)。

平野

なんとかしないといけないので、予備品が尽きると予想できた時点で「新TSU」の開発を始めました。

マダム

VERAの命運をかけた装置開発が始まったわけですね!

平野 賢
氏名
平野 賢 ひらの けん
出身地
埼玉県生まれ
紹介

観測装置の安定運用と長期的性能維持を目標とするVERA保守部門所属。前職では民間企業で人工衛星地上試験設備改修等を担当。2016年に国立天文台へ転職し技術員となる。子どもの頃から天文好き。いまも自宅にある望遠鏡Vixen VIPERで天体を観測したり、観望会ボランティアで星座の解説をすることも。多趣味だが卓球と合唱を長く続けている。

VERA4局
TSU(Time Synchronous Unit)

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