第21回目の意中の人は
平野賢さん

原子時計があるんです

マダム

コロナ対応によりアクリル板を挟んでのインタビューとなりますがご容赦ください。はじめに平野さんの肩書きである「技術員」の仕事について教えてください。

平野

技術員は、国立天文台技術職員の職名のひとつで、天文学研究を支えるエンジニアです。プロジェクトによって担当する職務は様々ですが、私はアンテナの機能を支える重要な装置の保守をしています。VERAの受信機・水素メーザー・気象装置などの保守、改良、装置開発が主な仕事です。

マダム

安定運用のための大事な仕事ですね。それぞれの装置と保守の内容をくわしく教えてください。

平野

では、受信機から説明しましょう。VERAの受信機は20mアンテナの上部機器室にあります。天体からの微弱な電波信号を受信機で増幅するのですが、その際に雑音を抑えるため、受信機は真空・極低温(-253℃くらい)にして容器に収めています。私は模擬の電気信号を使って受信機の動作を確認したり、トラブル発生時に計測器を担いで駆けつけ、どの部分が不具合なのかを調べて対応したりしています。

上部機器室で作業中の平野さん
上部機器室で作業中の平野さん
平野

気象装置は、風向、風速、気圧、温度、湿度、降水の有無を知るための装置です。VERAの各局に設置されています。

マダム

へえ! 気象観測もするんですね。

平野

はい。観測時の気象状況は非常に重要なので、気象庁と同じくらい高性能な装置を使っています。居ながらにして各局のリアルタイムの気象状況がわかります。メーカーによる点検を2年ごとに実施していますが、それでも壊れることはあるので、その場合はどこに異常があるのかを見つけて対応します。

マダム

あとひとつの「水素メーザー」とは何でしょうか?

平野

水素メーザー原子時計です。VERAを含めた「VLBI観測」では観測局間の時刻比較が大変重要なため、非常に正確な時計が必要なんです。水素メーザー原子時計は1秒狂うのに1億年かかるほどの高い精度で時を刻みます。

マダム

なんと! 原子時計をお持ちでしたか。

記事公開日: 2020年10月30日

平野 賢
氏名
平野 賢 ひらの けん
出身地
埼玉県生まれ
紹介

観測装置の安定運用と長期的性能維持を目標とするVERA保守部門所属。前職では民間企業で人工衛星地上試験設備改修等を担当。2016年に国立天文台へ転職し技術員となる。子どもの頃から天文好き。いまも自宅にある望遠鏡Vixen VIPERで天体を観測したり、観望会ボランティアで星座の解説をすることも。多趣味だが卓球と合唱を長く続けている。

アクリル板

アクリルパーテーションは高価なので、アクリル板をブックエンドで挟んで手作り。こんなところにも経費節約の工夫が垣間見える。

受信機

アンテナで集めた電波をコンピューター処理するための電気信号に変換する装置

VERAの観測装置・観測システム
上部機器室
水素メーザー原子時計

水素原子が示すメーザー発振を利用した時計。1日以内の短期的な安定度に優れ、超長基線電波干渉計(VLBI)における各素子アンテナの周波数標準として利用されている。(天文学辞典より引用)