私はいま岩手県奥州市の山中にある「江刺地球潮汐観測施設」のトンネルの中にいます。VERAのアンテナがある水沢VLBI観測所から車で約30分ほどの場所ですが、田村さん、ここは何をする施設なのでしょうか?
ここは地球潮汐を観測する施設です。月と太陽の引力によって地球が変形する現象ですね。潮汐というと、海面の高さが1日に2回上下する海洋潮汐を思い浮かべるかもしれませんが、地面も同じように約30cmほど変形しているんですよ。
なんと!固い地面が30cmも伸びたり縮んだりしているなんてビックリです。どうやってその伸び縮みを測定しているんですか?
地球潮汐の観測方法には、地表面の伸縮や傾斜、重力変化の測定などがあります。この全長250mのトンネル内にいくつか測定器があるんですが、「石英管ひずみ計」では、10mの地面に対して1000分の1ミリの伸び縮みを測っています。
ものすごく精密な測定をしているのですね。
こんどは水沢VLBI観測所の隣に設置している重力計を見に行きましょう。
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こちらの超伝導重力計では重力加速度の変化を調べています。
じゅ…重力加速度?
高いところから物を落とすと、どんどん速度が速くなって落ちていきます。手を離してから1秒後には秒速9.8mになり、2秒後には倍の秒速19.6mになり…というのが重力加速度ですが、ようは重力を測っているんです。重力は場所によってちがいますし、時間とともに変化します。
あっ、もしかして潮汐も関係あります?
はい。潮汐によって地上の重力の1千万分の1くらい変化しています。観測ではさらに精密に地上重力の1千億分の1の変化を調べています。
重力の変化を調べるとどんなことが分かるのですか?
地球内部の様子ですね。マントルの固さや形状、深部の流体核の運動がわかります。このように地球の形や大きさ、重力などを測り、その時間変化を探ることによって活動している地球の姿を捉える研究が「測地学」です。
だんだん測地学のことがわかってきました。あれっ?私は電波天文学のVERAを取材に来たんですけど、取材先まちがえてないですよね?
記事公開日:2015年1月29日
国立天文台水沢VLBI観測所でVERAの測地を担当しています。
江刺地球潮汐観測施設やGPS、重力計などの観測装置を用いた地殻変動を研究しているほか、世界の座標系の中でアンテナの位置を決めるVLBI観測の国際プロジェクトにも協力しています。
古地図の魅力にはまっていて、古い地図を集めるのが趣味です。
1979年6月から観測が続けられている地球潮汐や地殻変動の連続観測を行う施設。硬い岩盤の坑内に地殻歪計や重力計を備えている。硬く安定した岩盤を有する北上山地はILC建設の候補地に挙がっている。
国際協力によって推進されている将来の加速器計画。全長約50kmの直線状の加速器をつくり、超高エネルギーの電子・陽電子の衝突実験をおこなう。ビッグバン直後に起こった素粒子の反応を再現することにより宇宙創成の謎に迫る。