「視力50万の瞳」が捉えたソンブレロ銀河の中心に潜む超巨大ブラックホールの周辺構造

本研究のインパクトと今後の展望

 

図7:巨大ブラックホールにも様々な「性格」がある(credit: (上段)NASA. (下段)国立天文台/AND You Inc.)


一般にブラックホールとはガスを「引き寄せる」天体です。それにも関わらず一部の肉食系ブラックホールは強力にガスを「噴出」しています。そもそもなぜブラックホールから噴出が起こるのか?特別な現象なのか?これはブラックホールの活動メカニズムを解明する上で天文学者に突きつけられた長年の難問です。この謎を紐解くためには肉食系だけ調べるのでは不十分で、むしろ宇宙の大多数を占める「草食系」ブラックホールの生態を明らかにする必要がありました。今回その代表格であるソンブレロ銀河において、小規模ながら肉食系同様噴出ガスが確認されたことは大変重要な結果です。「ガス噴射」は肉食系のみがもつ特別な現象ではなく、どうやら多くのブラックホールが備える「共通の能力」であることを意味しているからです。

ただ、「なぜ噴出がおこるのか?」「噴出ガスの強弱をもたらす根本的要因は何なのか?」そのメカニズムを解明することは本研究だけでは不十分です。また、草食系の中でもとりわけ活動性の弱い、いわば「絶食系」ブラックホールに噴出ガスが存在するかどうかはまだわかりません(私たちの住む天の川銀河の中心に存在する巨大ブラックホールが「絶食系」代表格)。おそらくブラックホールに吸い込まれるガスの量の違いや、周辺の磁場構造、ブラックホール自身の自転速度(スピン)の違いなどが関係していると考えられます。この難問を解くためには噴出ガスのみならず、ブラックホールに降着するガス(降着円盤)との関連も一緒に調べる必要があります。理論的にソンブレロやM87(おとめ座A)の降着円盤はミリ波〜サブミリ波(波長1ミリ程度以下の電波帯)で最も検出しやすいと予想されており、研究チームは現在ALMA望遠鏡なども用いてこれらの巨大ブラックホール周辺構造を更に詳しく調べています。

最後に、今回ブラックホールに肉薄する解像度で撮影に成功したことは、近い将来「ブラックホール本体の直接撮像」の実現に向けて大きな弾みとなる成果です。今回のVLBI観測はいわゆるセンチ波での電波観測でしたが、現在さらに高い周波数を用いたVLBI実験が世界中の天文学者の協力のもと進められています(通称サブミリ波VLBI, またはEvent Horizon Telescopeプロジェクト)。日本からも本研究チームを含め国立天文台が中心となって参加しています。サブミリ波VLBIを用いれば今回のセンチ波VLBIを更に10倍程度上回る解像度(視力約「300万」)が実現し、文字通り「黒い穴」が直接写真に写ることが期待されています。研究チームは今後「噴出ガス」、「降着円盤」、そして「本体」まで総合的に観測することによってブラックホール活動メカニズムの解明を目指します。

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