高速電波バーストは持続時間が非常に短い電波パルスが放射される天体現象であり、どうやって放射されているか、どのような天体から放射されているかが未解明な天体です。東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程の池邊蒼太、宇宙航空研究開発機構主任研究開発員の岳藤一宏、東京大学宇宙線研究所名誉教授の寺澤敏夫、國立中興大學助教の橋本哲也、国立天文台水沢VLBI観測所長で東京大学大学院理学系研究科併任の本間希樹らは、臼田64m電波望遠鏡を用いて日本初の高速電波バーストを検出しました。今回検出したリピート型高速電波バーストからの電波パルス(注1)は単発型並みに明るく、単発型高速電波バーストの一部が再度高速電波バーストを放射する可能性を示唆しました。
高速電波バースト(Fast Radio Burst; FRB)は、典型的にミリ秒オーダーという非常に短い持続時間の電波パルスを発する天体現象です。2007年に初めて発見されてから、その母天体や放射機構が未だ謎に包まれた興味深い天体となっています。高速電波バーストの放射の性質や、それを取り巻く環境を知るためにはさまざまな周波数帯で本天体を観測することが重要です。しかしながら、現在ほとんどの高速電波バーストは約600MHzや1.5 GHzで検出されています。
また、ほとんどの高速電波バーストは一回きりしか電波パルスが観測されていない「単発型」になりますが、いくつかの高速電波バーストは複数回電波パルスを放射する、「リピート型」として分類できることが確認されています。FRB 20201124Aという天体もその一つであり、最も活動的なリピート型高速電波バーストのうちの一つになります。この天体は2020年に初めて発見され、2021年の4月に活動が活発になり海外の望遠鏡により千個以上の高速電波バーストが観測されました。そして2022年の1月下旬に再び高速電波バーストが放射されていることが報告され、活動期に再び突入したことが予想されました。
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻の池邊蒼太大学院生らは臼田宇宙空間観測所の64 m 電波望遠鏡を用いて約2 GHzと8 GHzにて同時観測を合計約8時間行いました。解析の結果2 GHzで一つの高速電波バーストを発見することに成功しました(図1)。これは日本の望遠鏡を使った高速電波バーストの初めての検出です。高速電波バーストは宇宙空間に存在する自由電子の影響により、高い周波数の電波ほど早く、低い周波数の電波ほど遅く到着します。本研究ではその特徴的な様子を捉えることができました。今回の結果はFRB 20201124Aからの電波パルスの検出の中で最も高い周波数での検出となりました。
このバーストを過去に発見された高速電波バーストと比較しました。図2ではそれぞれのバーストの持続時間とエネルギー密度を比較しています。この図で見られるように、単発型高速電波バーストは一般的にリピート型のものより高いエネルギーを持っている可能性があります。その上で今回発見された高速電波バーストは他の多くのリピート型よりも遥かに高いエネルギーを有し、単発型と同程度のエネルギーを持つことがわかりました。この結果からリピート型高速電波バーストは単発型に匹敵するぐらい明るくなる可能性があること、即ち単発型高速電波バーストの中には本質的にリピート型のものが紛れている可能性があることが示唆されます。この可能性を確かめるために、今後単発型とリピート型の両方の高速電波バーストを追観測することが重要になります。最後に今回の成果の立役者である臼田64mは1984年に完成した国内屈指のベテラン電波望遠鏡です。そのような望遠鏡でも天文学の最前線でまだまだ活躍できることが示されました。
本研究は、科研費(課題番号:21J00416、21H01078、22K03681、15H00784(KN)、22H01267)、及びNational Science and Technology Council of Taiwan(110-2112-M-005-013-MY3、110-2112-M-007-034-、111-2123-M-001-008-)の支援を受けて実施されました。
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