うみへび座銀河団で謎の電波放射を発見

近傍銀河団の中にこれまで見つかっていなかった電波放射を発見しました。この発見は、低周波の電波観測の必要性とX線を放射する高温プラズマとの比較の重要性を明確にするとともに、銀河団の進化を解明する新たな道筋をつける成果です。

銀河団は宇宙で最大の質量を持つ天体で、その重力エネルギーは膨大なものです。銀河団にはX線を放射する数億度の高温プラズマや磁場、光速に近い速さの電子(宇宙線)があり、銀河団の重力エネルギーが変換されることで生成すると考えられています。しかし実際には、どのようにエネルギーの変換が行われるのか未だ十分な解明はされていません。銀河団同士の衝突は、それぞれが持つ膨大な重力エネルギーを衝突の衝撃により解放すると考えられ、銀河団の進化や高エネルギーな宇宙線の起源を解明する上で重要な研究対象となっています。うみへび座銀河団(Abell1060)は北天で最も地球に近い銀河団で、多くの研究が行われています。この銀河団は過去数10億年の間に衝突や合体があったことが示唆されている一方で、衝突合体に起因した高エネルギーな宇宙線やX線で見られる特異な形状が見つかっておらず、大きな謎となっていました。

国立天文台水沢VLBI観測所の藏原昂平(くらはらこうへい)特任研究員をはじめとする研究チームは、2010年12月に観測されたGMRT(Giant Metrewave Radio Telescope)のデータアーカイブに対して、新しい解析手法を用いて高い電波感度を獲得し、今までに報告されたことがない広がった電波放射をうみへび座銀河団の中に発見しました。この電波放射の存在を確かなものとするため、MWA(Murchison Widefield Array)による観測データアーカイブを精査し、より低い周波数でも同じ領域に電波放射があることを確認しました。一方、可視光の観測データなどからは明確に対応する天体を見つけられず、これまでに確認されたことがない電波放射であると考えており、画像上の形から「オオコウモリ(Flying Fox)」と名づけました。またX線天文衛星XMM-Newtonの観測データから、オオコウモリを含む領域で重元素量がやや高いと確認され、見つかった電波放射との関連を示唆していますが、高温プラズマの特異な形状は見られず、銀河団の合体衝突を解き明かすには日本のX線天文衛星XRISMによる検証が待ち望まれています。

今回の発見は、従来の代表的な電波観測(~1.4GHz程度)に比べてより低い338MHzの周波数の観測データから見つけることができ、次世代の超大型電波望遠鏡SKA(エスケーエー)など低い周波数の電波観測に最新の解析手法を用いることで、新たな研究成果がもたらされることを示唆してします。また同様の電波放射をより多くの銀河団で捉えることは、銀河団の進化や宇宙線の加速メカニズムの解明につながり、銀河団の膨大な重力エネルギーの変換の仕組みを解き明かすことにつながると考えます。

この研究成果は、Kurahara et al. “Discovery of Diffuse Radio Source in Abell 1060”として、2024年4月出版の『日本天文学会欧文研究報告(PASJ)』にレター論文として掲載されました。



図表
図1:うみへび座銀河団(Abell1060)。背景カラーが、uGMRTで観測された電波強度分布を示し、灰色のコントアはXMM-NewtonによるX線の表面輝度分布を示している。オオコウモリは銀河団中心に隣接する形で、銀河団中心に対して南東に位置している。50kpcは約16万光年。(クレジット:Kurahara et al.)(図をクリックすると拡大できます)


図2:うみへび座銀河団(Abell1060)中にみつかったオオコウモリ。背景カラーは図1と同じくuGMRTで観測された電波強度分布を示し、オオコウモリの頭が南西を向き、両翼を広げた先が銀河団中心のNGC3311と、銀河団南東のNGC3312に隣接しているようにみえる。(クレジット:Kurahara et al.)(図をクリックすると拡大できます)


図3:星座・うみへび座とその方向に位置するうみへび座銀河団。今回発見したオオコウモリは、うみへび座銀河団中に発見され、天球面上で南西に飛び立とうとしている。(図をクリックすると拡大できます)


関係リンク

助成金リスト
  • 本研究はJSPS科研費 JP21H01135, JP20H00157の助成を受けたものです。
  • 名古屋大学融合フロンティアフェローシップ事業 (JPMJFS2120: JST 科学技術イ ノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業)。

CSS not active

JavaScript not active