「視力50万の瞳」が捉えたソンブレロ銀河の中心に潜む超巨大ブラックホールの周辺構造

研究の背景:「肉食系」ブラックホールと「草食系」ブラックホール?

 

図1:「肉食系」巨大ブラックホールの代表例:
(写真左)うお座方向にある電波銀河3C31. (写真右)おとめ座方向にある電波銀河M87(おとめ座A)

これまでの研究から、多くの銀河の中心部には太陽質量の約百万倍から約百億倍という巨大な質量を抱えたブラックホールが存在することがわかってきました。ブラックホールは強い重力によってあらゆる物質を吸い込む、宇宙で最も謎めいた天体として有名です。その周辺構造を直接観測してブラックホールの活動メカニズムを解明することは現代天文学における究極的課題の1つとなっています。

一部の巨大ブラックホールは極めて活動が激しく、物質を吸い込むと同時に強力な「噴射」も観測されています。「ジェット」と呼ばれるこの現象はブラックホール近傍から噴出されたガスが光速の99%以上の速度で数千〜数万光年にもわたって宇宙空間を突き進む宇宙最大級の高エネルギー現象です(図1)。この種のブラックホールはいわば「自己主張」がはっきりしているので、ブラックホール自体は輝かずとも、こういった周囲の活動現象を手がかりにブラックホール自体の性質を探ることが可能です(おとめ座Aに関する研究チームの過去の記者発表資料はこちら)。私たちの研究チームではこのようなパワフルなジェットを噴出する巨大ブラックホールを「自らを積極的に周囲(観測者)にアピールする」という意味で「肉食系」巨大ブラックホールと呼んでいます。

ところがこのような肉食系はごく少数派で、実は宇宙に存在する巨大ブラックホールの大多数では大規模なジェットが未だ見つかっていません。この種の巨大ブラックホールは光度や活動性が弱いものが多いため観測が難しく、肉食系と比較してその生態の多くが未だ謎に包まれています。私たちの住む天の川銀河の中心に潜む巨大ブラックホールもこの仲間です。研究チームではこのような巨大ブラックホールを肉食系に対して自己アピール控えめな「草食系ブラックホール」と呼ぶことにしました。

宇宙の多数派を占める草食系巨大ブラックホールの生態を明らかにしたい。それが今回の研究チームの目標です。草食系にもジェットは存在するのでしょうか?それとも肉食系だけが持つ特別な能力なのでしょうか?この疑問を解決することはブラックホールの活動メカニズムを紐解く上で大変重要な手がかりとなるのです。

--> 2. ソンブレロ銀河

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