重い原始星が育っていくときに発する「熱の波」が目撃されました。理論的に説明できていなかった重い星の形成過程について理解が進むと期待されます。
星空には太陽の何十倍も重い星がたくさん存在しています。しかし、星形成の理論からは、原始星からの強い光に阻まれて、星は太陽の8倍以上の重さに成長できないと推定されています。この理論と現実との不一致に、天文学者は数十年も悩まされてきました。
解決策のひとつとして、重い原始星は短時間の「爆発的な降着(降着バースト)」を繰り返すことによって質量を増やすというアイディアがあります。周囲からガスが一気に原子星に落ち込み、短期間に多くの質量を獲得する一方、数百年から数千年に1回の降着バースト以外の時期には静穏であるというモデルです。ただ、降着バーストの期間は短く、また原始星はガスや塵に覆われていて可視光での観測は難しいため、降着バーストを観測的に捉えることは困難でした。
2019年1月、茨城大学の天文学者が、へびつかい座の方向にある「G358-MM1」という重い原始星で、降着バーストにつながる兆候を見つけました。これに呼応して、国際的な共同研究チームである「メーザー監視機構」(Maser Monitoring Organization, M2O)が編成されました。M2Oでは、オーストラリア、ニュージーランド、そして南アフリカの複数の電波望遠鏡で同時観測することで、降着バーストを起こした原始星が出す熱によって生じる放射の細かい構造を調べることができます。国立天文台水沢VLBI観測所のロス・バーンズ(Ross Burns)さんが率いるこのチームは、数週間おきに得られた観測画像を比較して、G358-MM1の位置から外に向けて広がっていく「熱の波」を発見しました。さらに、この波が降着バーストによって引き起こされたことを、飛行機に搭載された赤外線望遠鏡ソフィア(SOFIA)を用いて確認しました。
「M2Oによって、重い原始星への降着バーストが引き起こす現象が初めて詳細に捉えられました。これは、間欠的な降着によって重い原始星が育つという理論を支持する発見です。M2Oは、多数の観測者や理論家の全世界的な共同研究であり、このような突発的な現象についての観測計画の立案、観測実行、そしてその後のデータの解釈を緊密に連携して実施できたのです」とバーンズさんは語ります。M2Oでは今後も、重い原始星の性質や形成メカニズムについて、より詳しい研究を続ける予定です。
この研究成果は、英国の天文学専門誌『Nature Astronomy』に2020年1月13日付で発表されました。
関係画像
図:「熱の波」の想像図。中心で起きた降着バーストが引き起こした熱の波が、外に向けて広がっていくようすを示している。(Credit: Katharina Immer)
観測画像:電波望遠鏡群が取得したデータを用いて描いた電波写真。メタノール分子が出すメーザー輝線の環が、重い原始星(白い十字)の位置を中心に外向きに広がっていく「熱の波」の痕跡を示している。図中の色は、ガスが観測者から見て近づく(青)、もしくは遠ざかる方向(赤)の運動の速度を虹色の勾配で示している。(Credit: 国立天文台, Burns et al.)
関連リンク
M20ウェブサイト(英語)
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