巨大な赤ちゃん星を育てる渦巻き円盤

太陽の8倍以上の質量を持つ重たい星「大質量星」は、内部での核反応や超新星爆発により生命に必要な構成要素の多くを生成する、元素の工場のような働きを持っています。また、大質量星はその強い放射や星風、超新星爆発によって周囲の環境に大きな影響を与え、銀河や宇宙の進化でも重要な役割を果たしています。大質量星は、進化末期の超新星爆発により、謎めいた天体ブラックホールとなります。 このような重要性にもかかわらず、大質量星はその誕生のプロセスが長年未解明のままでした。最近の研究により、大質量星は太陽と同程度の比較的軽い小質量星と同様に、生まれたばかりの若い赤ちゃん星「原始星」周囲を回転する「原始星円盤」の中心で形成されることが明らかになってきました。原始星円盤は、半径がおよそ1000天文単位、つまり、地球と太陽との距離の1000倍の大きさで、ガスと塵(ちり)によって作られています。


大質量星形成研究における最有力の理論として、ガスと塵の塊が不定期に原始星円盤から成長中の星、つまり中心にある原始星に時折落下する「降着バースト」のアイデアが注目されています。理論計算では、大質量原始星が成長する間に獲得する質量の半分以上は降着バーストによって供給されると予言しています。このような急激な成長は数100年から数1000年の間隔で発生するものの、その期間は数か月から数年しか続かないため、実際に降着バーストを目撃することは非常にまれであると考えられてきました。2019年まで、天文学者は大質量原始星の降着バーストを過去2回の偶然の機会にしか観測できていませんでした。しかし、2019年1月に起こった大質量原始星 G358-MM1における降着バーストは、その発生直後から世界中で徹底的に観測を行うことに成功し、降着バースト現象の研究を大きく発展させることができました(「重い原始星が吐き出す『熱の波』」の記事を参照)。


降着バースト説では、原始星円盤が小さなガスや塵の塊(とはいえ惑星と同程度の質量)で作られており、これらが円盤内での重力の作用によって天の川銀河のような渦巻き(渦巻腕)を作る可能性があることを提案しています。大質量原始星円盤のガスや塵の細かい構造や渦巻き構造を観測することは、言うまでもなく天文学者にとっては困難な挑戦でした。 大質量原始星円盤は、塵による吸収のため通常の光学望遠鏡ではそのほとんどの部分を見通すことができず、また、多くの大質量原始星は太陽系から数1000光年以上離れたはるか遠くに存在しているために高解像度の観測手法が限られていたためです。


しかし、Nature Astronomyに新たに発表された本研究では、マイクロ波(電波)のレーザーである「メーザー」放射の観測的研究を専門とする天文学者のチームが、これまでより詳細に大質量原始星円盤を撮像することに成功しました。国際協力により世界中の超長基線干渉計(VLBI)を使用することで、チームは2019年1月に降着バーストを起こした大質量原始星G358-MM1の周囲にある回転円盤内に渦巻き状の腕を発見することができました。


チームは、「熱波マッピング」と呼ばれる新しい解析技術を考案しました。これは、降着バーストによって加熱された円盤内のガス中に存在するメタノール分子からの強いメーザー放射の位置と回転速度を計測することで、円盤の全体像を捉えるという手法です。時間を変えて天体の撮像を行うことで、メタノールメーザーの光っている場所が円盤の外側に向かって時間とともに広がっていく様子を描き出し、初めて円盤の全体像を捉えることに成功しました。今回の研究では、アジア、オセアニア、ヨーロッパ、アメリカにあるVLBI観測網に参加する合計24台の電波望遠鏡を使用して、6.7 GHz(波長4cm)のメタノールメーザーを観測しました。全てのデータを組み合わせることで、ミリ秒角(1/3,600,000度)の解像度でG358-MM1の原始星円盤にある渦巻きの画像を作成しました。


この発見は、ケプラー回転する原始星円盤、突発的・間欠的な降着現象、および成長する大質量原始星へ質量を供給するのに重要な役割を果たす渦巻き構造など、降着バースト理論を裏付ける複数の証拠をまとめたものです。


本研究チームは、「メーザー監視機構」(Maser Monitoring Organization, M2O) と呼ばれる国際共同研究組織を2017年に結成し、世界中の電波望遠鏡を使用して、大質量原始星の降着バーストを引き続き捜索しています。 これまでのところ、大質量原始星における降着バーストの決定的な証拠は3回(3天体)しか確認されていません。チームは、他の大質量原始星の降着バーストをさらに調査して大質量星形成プロセスの全容を解明するために、より多くの降着バースト現象を発見したいと考えています。


G358-MM1には、原始星を美しく包み込む 4本の渦巻き腕があります。渦巻き腕は、円盤からその中心で成長しつつある原始星にガスや塵を供給する流れを作る役割を果たします。熱波マッピングやその他の観測技術を使用することで、より多くの他の大質量原始星でも渦巻き腕や降着バーストが発見されると期待されます。これにより、天文学者は宇宙の進化に大きな影響を与え、生命の元となる元素を供給する大質量星の誕生をよりよく理解できるようになると期待されます。


今回の研究成果について、主著者であるRoss A. Burnsは、次のように述べています。
「今回の発見には、世界中にある24の電波望遠鏡が観測に参加し、観測データは3つの異なる国にあるデータセンターで処理が行われました。これらの研究活動は、論文著者以外も含めて、150人以上もの研究者による不断の努力によって達成されました。関連する全ての皆様に感謝すると共に、今後も共同研究の関係を深めていけることを期待しています。」


また研究チームのメンバーである水沢VLBI観測所の廣田朋也 准教授は、
「メタノールメーザーを使った新しい観測手法により、大質量原始星がどのように成長するかを明らかにした画期的な成果です。今回の発見では、国立天文台や国内の大学研究者による観測やデータ解析が国際共同研究チームM2Oでの主導的役割を果たしました。今後のVERAや大学連携VLBIネットワーク、東アジアVLBIネットワークによる新しい天体の観測にも期待しています。」
と述べています。


この研究成果は、R.A. Burns et al. “A Keplerian disk with a four-arm spiral birthing an episodically accreting high-mass protostar”として、英国の天文学専門誌『ネイチャー・アストロノミー』に2023年2月27日付で掲載されました。



図表


(図1)降着バーストを起こした大質量原始星G358-MM1の4本の渦巻き腕を持つ原始星円盤の想像図(Credit: Charlie Willmott, Ross Burns)。


(図2)熱波マッピングによって画像化された、G358-MM1のメタノールメーザー放射のイメージ。中央の十字は、サブミリ波干渉計ALMAによる撮像観測で決定された大質量原始星の位置を表しています。色はガスの速度で、青色の領域は観測者に向かって近づきつつあり、赤色の領域は観測者からガスが遠ざかりつつあることを表しています。全体として、G358-MM1周囲の原始星円盤がケプラー回転していることを示しています。


(図3)熱波マッピングのデータを解析して得られた、円盤内の渦巻き構造。原始星の周りに4本の渦巻き構造を示しています。(Credit: R. A. Burns)



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